原資産の変動

前章CAPMの意味のひとつとして資産の現在と将来の株価を見極めることがあることに触れた。 本章のデリバティブ(派生資産)とは、なんらかの原資産を設定し、その挙動に付与されたさまざまな条件(オプション) をあらたな資産としてみなすものである。もとの原資産から生み出されるために派生という言葉が使われる。

デリバティブあるいは派生資産に関する当面のテーマは、将来に設定された条件(オプション)の 現在の価値(価格)をどのように考えるべきかということである。 すなわち将来のリターンあるいはペイオフが決まる資産の現在価格を調べることになる。

原資産の価格は、将来は不確実であっても現在の価格は分かっている。しかし、不確実な将来の価格にさらにいろいろな条件がついたとき、 その条件にもとづく(派生)資産の現在の価格はどのようなものになるであろうかという問題である。 もちろん将来の価格を現在に引き戻すのであるから、 CAPMでおかれたようないろんな仮定が用意されるので、求められる現在価格は、適正あるいは合理的と考えられるものという意味である。

デリバティブの代表例として、原資産を株価と設定し、将来の定まった時点で、株価がある価格を上回ったらその上回った分をもらえ、 下回ったらもらえる分はゼロとなるという約束の条件を派生資産とする。この派生資産をヨーロピアン・コール・オプションと呼ぶ。 ヨーロピアン・コール・オプションの現在価格が、どのように定まるべきかの議論から始める。

したがって、一般に派生資産は原資産の変動をどのようなモデルでいかに捉えるかは、その後の議論の展開や得られるものに大きく影響する。 ヨーロピアン・コール・オプションの場合、原資産である株式の株価をどのようなモデルとするかということである。

一般にモデルの妥当性や現実市場との相似性が十分検証される必要があるが、あまりに難解すぎて、取扱いに行き詰まっては意味がない。 株価変動として議論されているものは時間を明確に区切った離散的な状況での研究と、 連続的に変化することを仮定した研究がある。この研究の流れに則って、本章の紹介も二つのテーマで進んで生きたいと思う。 後から学ぶわれわれは、二つのモデルを比較検討することで、より理解が深まるとも思う。

簡単に二つのモデルを説明しておこう。

離散的なモデルでは一期間の状況変化を二つの分岐(上昇と下落)に限って議論を整理していき、 多数期間の状況変化を積み重ねることで株価の変動を捉えようとする。 そこにはいきなり高度な数学は用いられないというメリットがある。

一方、連続的モデルでは実数の時間の流れを適当に区切り期間を用意する。株価の微小変化を実数の幅で定義し、 これを大域に拡張することで議論する。すなわち数学でいう連続関数をイメージされるとよいだろう。

それぞれいくつかの研究モデルがあるようだが、ここではもっとも代表的なモデルとして、 離散型はCRR(コックス、ロス、ルービンシュタイン)が提案した二項モデル、 そして連続型はブラックとショールズがオプション価格導出で用いたものを説明する。

続いて、離散型の二項モデルは限定的な条件のもとのモデルであるかのような誤解を受けないよう、 モデルの持つパラメータが生み出された背景を、連続モデルとの関係を踏まえて説明する。 そして、二つのモデルが極限では同一の内容を含意していることを証明しよう。

株価の変動モデルはどのようなものであろうと、将来の株価の動きを示唆するものである。 示唆するとは、将来は不確実であるから、確率分布を与えるということである。 二つのモデルがどのような確率分布をもたらすことになるのかを導出し、最終的に離散の状況の数を無限に増加させると、 ほぼ連続の状況での結論と一致することを確認する。 それは二項分布が極限では正規分布に収束することをイメージすれば納得できるだろう。

モデルが異なれば当然異なるインプリケーションが得られ、そうでなければ異なるモデルを考える必要はない。 もちろんそれぞれでの様々な研究成果があるが、しかし、 あまり現実と異なる様相を生み出すようではモデルの存在理由そのものが問われてしまう。 少なくとも将来株価の確率分布という観点では、CRRモデルの極限はブラック・ショールズのモデルと等価な結論を導き出している。

すなわち将来は同じぐらい不確実であると主張しているのである。



デリバティブは導関数という意味もあることはご存知だろう。


この場合、原資産を購入する必要はない。









後に原資産を金利として、債券価格へ拡張する。


















後に連続関数でもとらえることはできなくなる。








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