連続モデル

二項モデルでは分割した一つの微小間隔を経ると、株価は二つの値のいずれかになると仮定し、その変化を積み上げることで、 株価の変動を表すこととした。 連続的な株価のモデルでは、株価は滑らかに変化するのだけれど、変動を議論するためには、 やはり株価の微小区間の変化を定義しなければならない。

もっともよく知られているのは、ブラックとショールズが前提とした \[ dS_t=\mu S_tdt + \sigma S_tdW_t \] という確率微分方程式であろう。

株価の微小変化$dS_t=S_{t+\Delta}-S_t$が、いつもこの方程式に従うこととするのである。 ここで$\Delta=dt$は微小時間、$W_t$は平均0、分散tのウィーナー過程、$dW_t$はその微小変化である。

この式は何を条件付けているのだろうか。そのひとつの安易な説明は、両辺を$S$で除するものである。すると、 \[ \frac{dS_t}{S_t}=\mu dt + \sigma dW_t \] となる。この左辺は$dS$を$S$の微小な変化分$S_{t+\Delta}-S_t$と見れば微小時間の収益率を意味するので、 収益率が平均$\mu$、分散$\sigma^2t$の正規分布に従って変化する株価であると考えていることになる。

もう少しもっともらしいこみいった説明を、離散と連続の橋渡しのために示してみよう。 精密な議論ではないので、イメージで受け止められたい。

株価の変化率を細かく区切った時間$dt=t/n$の中で確率変数$X_i(\gt 0)$で表す。t時点の株価は、$S_t=S_0X_1X_2\cdots X_n$となる。 $X$を上昇下落率の$u,d$と見れば、この組み立ては2項モデルと同じである。

この両辺の対数を取れば、 \[ \log S_t=\log S_0+\Sigma_{i=1}^n\log X_i \] ここで個々の$\log X_i$が相互に独立で正規分布$N(\mu dt,\sigma^2 dt)$に従うとするなら、 合算した$\Sigma\log X_i$はやはり正規分布$N(\mu t,\sigma^2 t)$となる。

さらに$\log X_i$を都合よく調整したものの合計を \[ W_t=\Sigma\left(\frac{\log X_i-\mu dt}{\sigma} \right) \] とおけば、$W_t$は正規分布$N(0,t)$となる。

これを移行すると、$\Sigma\log X_i=\mu t+\sigma W_t$となるので、 \[ \log S_t=\log S_0+\mu t+\sigma W_t \] となり、この式の短時間での変化分だけを捉えれば、 \[ \Delta\log S_t=\mu \Delta t +\sigma\Delta W_t \] が得られる。

\[ \Delta\log S_t=\log (S_t+\Delta S_t)-\log S_t=\log\left(1+\frac{\Delta S_t}{S_t}\right) \] をテイラー展開して、$\Delta \log S_t$を一次項$\Delta S_t/S_t$で近似できるとしたうえで、両辺の$S_t$を払えば、 \[ \Delta S_t=\mu S_t\Delta t+\sigma S_t\Delta W_t \] $\Delta=d/dt$として再び両辺の$dt$を払い、連続的に見るなら、 \[ dS_t=\mu S_tdt + \sigma S_tdW_t \] にたどり着くことになる。

実はこの説明は数学的には正しくなくて、あくまでも離散的な変動から強引に連続的な変化へ(確率変数であることを無視して)、 まったく形式的に誘導しているだけであることに注意する必要がある。

なぜなら、連続型の確率微分方程式を解く際には、確率項が含まれるテイラー展開では、 1次項で近似するのだけでは不足することになる。それが伊藤積分の重要性である。

とはいえ、導出に当って変化率の対数$\log X_i$が正規分布$N(\mu,\sigma^2)$に従うこと以外大きな仮定は、 設けていないことに気づかれるであろうか。

変化率の対数$\log X_i$が正規分布$N(\mu,\sigma^2)$に従うことを、 微小時間$dt$で上下動の2つの場合しか発生しないとするのならば、 \begin{eqnarray*} \log X_u&= &\mu dt + \sigma \sqrt{dt} \\ \log X_d&= &\mu dt - \sigma \sqrt{dt} \end{eqnarray*} とかけるであろう。これは指数の形になおせば、前節離散変動モデルで触れたCRR式から非常にわずかな相違でしかない。

前項と同様に特段の説明もなく、先走ることとなるが、冒頭のブラックとショールズが株価に仮定した確率微分方程式は、次のように簡単に解ける。 一般的な伊藤の補題に、$dS$を代入し、 \[ df=\left( \frac{\partial f}{\partial t}+\mu S\frac{\partial f}{\partial S}+\frac{1}{2}\sigma^2S^2\frac{\partial^2 f}{\partial S^2 } \right)dt+\sigma S\frac{\partial f}{\partial S}dW \] となるので、$f=\log S$ と見て、 \[ \frac{\partial f}{\partial t}=0,\qquad \frac{\partial f}{\partial S}=\frac{1}{S},\qquad \frac{\partial^2 f}{\partial S^2 }=-\frac{1}{S^2} \] を代入すれば、 \[ df=d\log S=\left( \mu-\frac{\sigma^2}{2} \right)dt+\sigma dW \] となり、[0,t]で積分すれば、$W_0=0$として、 \[ S_t=S_0\exp\left( \left( \mu-\frac{\sigma^2}{2} \right)t+\sigma W_t \right) \] によって、t時点の株価が得られた。当然この解は元の確率微分方程式を満足している。伊藤の補題の練習に計算されるとよい。 この対数を取ると、 \[ \log S_t=\log S_0+\left(\mu-\frac{\sigma^2}{2} \right)t+\sigma W_t \] となって、さきほどの離散との関係で使った式に$(\sigma^2/2)t$ が加わったものになっている。 上で説明が正しくないといった注意はこれを意味しており、確率変数の取扱いに明確な差が現われてきている。

この対数を取った株価は、右辺を見れば正規分布に従うことになっているので、ブラックとショールズの仮定した代表的な株価の連続モデルでは、 株価は対数正規分布に従うものと仮定されていることになっている。










ウィーナー過程はこの段階では正規分布と考えておいてください。




















正規分布の再生性という。




















株価が対数正規分布に従うことを思い出されたい。











































伊藤積分については別の項で説明したいと思う。

inserted by FC2 system