資産の確率分布(連続モデル)

 

確率変数の変数変換(1対1)

確率変数の変換については、改めて別項で述べることとするが、前項までで先走った補足のために簡単な事柄をおさらいをしておこう。

いま平均0、分散1の標準正規分布$N(0,1)$に従う確率変数を$z\in\mathbb{R}$とする。これを、 \[ z\sim N(0,1) \] と表記する。$z$の確率要素(確率素分)$dP$は密度関数と確率変数の増分の積によって、 \[ dP=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{z^2}{2}}dz \] と表される。

新たな確率変数$x$がこの$z$に定数$a$を加えたものとなっているとき、$x$はどういう分布となるだろうか。

$x=a+z$とする。初等の解析の定めによれば、$z=x-a$、$dx=dz$であるから、確率要素は、 \[ dP=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{(x-a)^2}{2}}dx \] となり、これは平均$a$、分散1の正規分布$N(a,1)$となる。すなわち、 \[ x=(a+z)\sim N(a,1) \] である。

また新たな確率変数$y$が$z$の$b$倍されたものとなっているときは、$y=bz$とすると、$z=y/b$、$dz=dy/b$となるので、 確率要素は、 \[ dP=\frac{1}{\sqrt{2\pi}b}e^{-\frac{y^2}{2b^2}}dy \] となって、これは平均ゼロ、分散$b^2$の正規分布であるから、 \[ y=bz\sim N(0,b^2) \] となる。

この二つをあわせると、$m=a+bz$という線型変換をすれば、$m$の確率要素は正規分布となり、 \[ m=(a+bz)\sim N(a,b^2) \] となる。これらの線型変換は可逆であることは、十分理解できるであろう。

次に新たな変数$u$が指数によって、$u=\exp(a+bz)$と表されるときの$u$の分布を形式的に求めてみる。 \[ z=\frac{\log u-a}{b},\qquad dz=\frac{du}{bu} \] なので、確率要素は、 \[ dP=\frac{1}{\sqrt{2\pi b^2}}e^{-\frac{(\log u-a)^2}{2b^2}}\frac{du}{u} \] となる。これを対数正規分布という。

指数部分は正規分布形なので、$d\log u=du/u$と見れば、 \[ \log u=(a+bz)\sim N(a,b^2) \] であって、対数を取ったものが正規分布していると考えられ、先の変換とも整合性がとれている。

 

連続モデルの確率分布

おさらいをした変数変換を使って、ブラックとショールズが用いた連続モデルの確率分布を確認しよう。 ブラックとショールズは株価の微小変化を、ウィーナー過程(ブラウン運動)$W_t$を利用して、 \[ dS=\mu Sdt+\sigma SdW_t \] とする。ウィーナー過程は定義から、いたるところ、 \[ dW_t=(W_{t+dt}-W_t)\sim N(0,dt) \] である。従って、$dW_t$の確率要素は、 \[ dP=\frac{1}{\sqrt{2\pi dt}}e^{-\frac{(dW_t)^2}{2dt}}dW_t \] となるから、標準正規分布$z$を利用すれば、先ほどの形式に従って、 \[ dW_t=\sqrt{dt}z\qquad (z~N(0,1)) \] となる。すると、もとのブラック・ショールズ式は、 \[ dS=\mu Sdt+\sigma S\sqrt{dt}z \] と書ける。

両辺を$S$で割ってみよう。 \[ \frac{dS}{S}=\mu dt+\sigma \sqrt{dt}z\sim N(\mu dt,\sigma^2dt) \] となる。左辺は瞬間的な株式の収益率$dS/S=(S_{t+dt}-S_t)/S_t$であるから、 瞬間収益率が平均$\mu dt$、分散$\sigma^2dt$となる正規分布に従うことを示している。

少し強引だが、$dt=1$とすれば、よくお目にかかるように株式の収益率が平均$\mu$、 分散$\sigma^2$の正規分布に従っていることを意味する。

次に$S$そのものの分布を調べよう。そのために方程式 \[ dS=μSdt+σSdWt \] を解く必要があるが、これはすでに連続モデルで求めているので、そこに線型変換を適応すると、 \[ S=S_0\exp\left(\left(\mu -\frac{1}{2}\sigma^2 \right)t+\sigma W\right) \] \[ S=S_0\exp\left(\left(\mu -\frac{1}{2}\sigma^2 \right)t+\sigma \sqrt{t}z\right) \] さらに対数変換を行うと、 \[ S=\exp(\log S_0)\exp\left(\left(\mu -\frac{1}{2}\sigma^2 \right)t+\sigma \sqrt{t}z\right) \] としておけば \[ \log S=\log S_0+ \left(\mu -\frac{1}{2}\sigma^2 \right)t+\sigma \sqrt{t}z\sim N\left(\log S_0+ \left(\mu -\frac{1}{2}\sigma^2 \right)t,\sigma^2t \right) \] すなわち、Sの対数を取ったものが正規分布となり、Sの確率要素は、 \[ dP=\frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2t}}\exp\left(-\frac{(\log (S/S_0)-(\mu-\sigma^2/2)t)^2}{2\sigma^2t} \right) \frac{dS}{S} \] となって、Sそのものは対数正規分布となる。

株価が対数(幾何)ブラウン運動に従うという表現は以上の内容を根拠とするのである。 これで連続モデルがもたらす将来株価の確率分布が求められた。









確率要素とは指定された$z$を含む微小区間の確率値(測度)である。



















多変数による再生性や畳込みについては項を改めたいと思う。




























































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