代表的投資家

議論している市場の前提のいくつかについて紹介してきた。今度は市場の参加者である投資家について考えておこう。 CAPMが前提とする市場の仮定の中で、投資家はたくさんいて、それぞれの規模は非常に小さく、みんな合理的で、 個別の投資による資産の価格に対する影響力はない(プライステイカー)ということがあった。

この仮定はそのまま生きているのだが、効率的市場仮説によって、情報の流通の議論が進むとさらに一歩進むこととなる。

さまざまなファイナンスの理論が打ち立てられていく基礎に市場の情報の流通のレベルが仮定されている。 そしてさらにその土台すでに述べたとおり、市場の情報の流通は均質であり、 情報を受け止めたときの投資家の合理性はやはり均質であるというものである。

市場の情報の流通の均質性については、結果として何かの事象が発生したとき、その事象の内容を知っているか知らないかは、 市場の中では一定に保たれていて、知っている人や知らない人が混在していることは無いと考えられている。

流れている情報の一部を知っていたり、知らなかったりすることもない。どんな微小な事柄も知っているか知らないかであり、 誰かが知っているならばすべての人が知っており、一人が知らなければ市場の全員が知らないことが仮定されている。

そして何かの情報を受け入れたとき、投資家の行動は合理的でなければならない。その合理性はやはり均質であるため、 みんな同じ行動をとることとされることとなる。

このような仮定の帰結は必然として、一人の投資家をモデルとしてイメージすれば、 それ以外のモデルは存在しないことを前提としてしまう。

従って、市場は実は一人の巨大な投資家が存在していることとなっている。この一見不思議な結論を代表的投資家と呼ぶ。

代表的投資家の仮定は、まったく非現実的であるかのように思われるかもしれないが、 合理性と情報の流れを非常にスピーディに見るならばあながち否定されるものでもないだろう。

代表的な市場である株式市場における証券会社の役割が情報の流通であり、 いまだ周知されていない情報を媒介することで手数料を得るというビジネスモデルであることはよく知られている。 証券会社が機能すれば代表的投資家の前提に近づいていく。しかしそれでも投資家の合理性が均質となることの保証にはならない。

代表的投資家の仮定は現象を単純化して行うモデル分析の基礎としては必須の仮定であって、 ブラックとショールズがたかだか二つか三つの資産で市場を構成してオプション公式を求めたように、 単純であっても示唆に富む結論を引き出すことは可能なのであろう。 しかし、どういう説明を加えようと確かに非常に強い仮定であることは否めない。






「競争市場の仮定」を参照されたい

























最初から一人の投資家を仮定すると、プライステイカーとは言えず、市場は交渉ゲームの理論にすすむかもしれない。













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