オプションプライシングの概略

オプションとは将来の一定の期日(行使期限)に定まった価格(行使価格)で取引を行う権利のことをいう。

もっともプリミティブなヨーロッパコールオプションは、期間内に配当のない資産を定まった時期に、 定まった価格で買う(コールする)ことのできる権利である。権利であるから当然行使しなくてもよい。

もし行使時点の市場の価格が行使価格より高ければ、直ちに権利を行使して資産を手に入れ、同時に売却して、市場との差額を利益として享受するだろう。 もし行使時点の市場の価格が行使価格より低ければだれも権利行使しないだろう。市場から手に入れたほうが安上がりだからである。 したがってこの場合権利は放棄されるだけで、オプション所有者に損は発生しない。

ではこのコールオプションの購入時の価格はどのように算定すればよいのであろうか。

オプションのプライシングの基本は、原資産となる株価の将来価格を推定し、 権利行使によって得られる期待利得(オプションのペイオフ)を求める。 原資産の現在価格と将来価格の割引関係をこのペイオフに適応し、将来のペイオフに対応する現在価格を求めるという考え方である。

 
  株式現在価格    →  将来株価
                  ↓
  ペイオフ現在価格  ←  将来ペイオフ(=将来株価-権利行使価格)
 

この関係の中で、まず第一に問題となるのは原資産(株式)の将来価格である。 将来価格が決れば、権利行使価格は定まっているから将来ペイオフは直ちに得られる。

現在価値への割引に利用するのは安全資産利子率というのがもっともであろう。 将来価格をどのような期待値で得れば合理的であるかがポイントになる。

具体的な数値例をみてみよう。簡単のために利子率はゼロとする。

いま株価1000の資産が次の時点で2000になるか、750になるか確率半々(0.5)であると考えている人がいるとする。

次の時点で行使価格が1500のオプションはいかなる価値をもつであろうか。

最初に考えられる方法はポートフォリオマネジメントの知識を使って、 オプションのペイオフと同じ価値が生じる複製ポートフォリオ構築することである。

安全資産と原資産を組み合わせて、見込みどおりの将来株価が生じたと考え、ペイオフ500と0の価値が生まれるポートフォリオを、 原資産$w$、安全資産$v$単位で構築するとすれば、

$2000w+v= 500$
$750w+v= 0$

という連立方程式となる。

これを解けば、$w=0.4$、$v=-300$ という単位が得られる。 この将来ペイオフを複製したポートフォリオの現在の価値は、

$1000\times 0.4+1\times (-300)=100$

となり、オプションの現在価値と等しくなっているはずである。この方法を複製ポートフォリオによる算出法という。

もうひとつの方法は現在価格1000と、将来価格2000及び750の関係に注目するものである。 もし市場がこの人の想定どおり確率半々で将来の場合が生じると見ているとなると、 現在の価格は、

$2000\times 0.5+750\times 0.5=1375$

となっているはずである。しかし現在は1000である。 これは市場の見込みがこの人の見込みよりも厳しいものとなっていることを意味する。市場の見込みを求めるならば、

$2000\times q+750\times (1-q)=1000$

とおけば、$q=0.2$が求められるから、市場は上昇0.2、下落0.8とみていることになる。 この市場の見込みは同じ動きが想定されるオプションに適応することは可能であろうし、 同じ見込みでないと合理的でなかろう。

するとオプションの現在の価格は、

$500\times 0.2+0\times 0.8=100$

ともとめられることになる。これをリスク中立確率による算出法という。

実はこの二つの方法は同じ概念であることをすでに説明した。やはり繰り返しとなるが、 オプション・プライシングの基礎は「同一の価値を持つものは同じ値段がつく」という「無裁定条件」によって強く支えられていることである。

そして無裁定であることから存在するリスク中立確率$q$によって、(コール)オプション価格が、 \[ C_0=e^{-rt}E_q(\max(S_t-K,0)) \] と表されることになる。

この段階で、上のような説明はあまりに簡易すぎて、逆にチンプンかんぷんな感じがするかもしれないが、 無裁定条件だけでなくて、いくつか重要な事柄を端的に含んでいるので、少し進んだらもう一度戻られると、難解な概念の理解が納得しやすくなるとおもう。

とりあえず、最後の公式に至り、そしてそれを解くことを目標に、議論を進めていこう。


























































































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