ブラック・ショールズ公式

ブラック・ショールズ式を求める解法は、主に四つの方法があることが知られている。

  • 複製ポートフォリオを考え偏微分方程式を解く
  • 測度変換しリスク中立確率によって解く
  • ファインマン・カッツの公式を援用して解く
  • 二項モデルの極限として解く
さらに値だけでもよいなら、偏微分方程式の数値解析を行って数値解を求める方法(陽解法、陰解法)もある。

本項ではこれまで議論を進めてきて、計算が簡単で、興味深い手法である二点目の測度変換の方法による解を求めてみよう。 これはいまのところもっともエレガントな方法と目されている。

株価の変動を、ブラックとショールズが行ったとおり、局所的に、 \[ dS_t=\mu S_tdt + \sigma S_tdW_t \] と設定する。

この確率微分方程式からは大域的には、 \[S_t=S_0\exp\left( \left( \mu -\frac{1}{2}\sigma^2 \right) t+\sigma W_t \right) \] が得られる。

このとき権利行使時点$t$、権利行使価格$K$の配当なしヨーロピアン・コール・オプションの現在価格の公式は、 リスク中立確率$q$を利用して、 \[ C_0=e^{-rt}E_q\left( \max (S_t-K,0) \right) \] と表されることになる。

ではこの式を解いてみよう。問題はリスク中立確率の適応であるが、それは前回までの紹介で切り抜けられるので、 あとは積分の領域変換を中心とした面倒な計算を続けることとなる。

第一段階

\begin{eqnarray*} C_0 &= &e^{-rt}E_q\left\{ \max \left(S_t-K,0 \right) \right\} \\ &= &E_q\left\{ \max \left( e^{-rt}S_t-e^{-rt}K,0 \right) \right\} \quad (S_t\quad on\quad q) \\ &= &E_p\left\{\max \left(S_0e^{-\frac{1}{2} \sigma^2t+\sigma X_t}-e^{-rt}K,0 \right) \right\} \quad (X_t\quad on\quad p) \end{eqnarray*} リスク中立確率を変換すれば、前項のとおり、いっきにこのようにできる。

$\max$関数をはずすためにとりあえず積分領域を$A$とおいて、 \begin{eqnarray*} \quad &= &\int _A \left\{S_0e^{-\frac{1}{2}\sigma^2t+\sigma X_t}-e^{-rt}K \right\}\frac{1}{\sqrt{2\pi t}} e^{-\frac{X_t^2}{2t}}dX_t\\ &= &S_0 \int _A \frac{1}{\sqrt{2\pi t}}e^{-\frac{(X_t-\sigma t)^2}{2t}}dX_t-e^{-rt}K\int _A \frac{1}{\sqrt{2\pi t}} e^{-\frac{X_t^2}{2t}}dX_t \end{eqnarray*} とする。積分領域$A$とは、元の式で言えば、$S_t-K\gt 0$が成立する$S_t$の領域ということである。

右辺の第一項の積分で、$ z_t=\frac{X_t-\sigma t}{\sqrt{t}}$と正規化すれば、積分領域を$A\rightarrow B$として、 \[ 右辺第一項積分= \int _B \frac{1}{\sqrt{2\pi }}e^{-\frac{z_t^2}{2}}dz_t\] とする。この積分領域の変更は変数変換に対応したものである。

右辺の第二項の積分では、$ y_t=\frac{X_t}{\sqrt{t}}$と正規化すれば、積分領域を$A\rightarrow C$として、 \[ 右辺第二項積分= \int _C \frac{1}{\sqrt{2\pi }}e^{-\frac{y_t^2}{2}}dy_t\] この積分領域変更も同様である。

故に、いずれも正規分布の形式にできた。 \[ C_0 = S_0\int _B \frac{1}{\sqrt{2\pi }}e^{-\frac{z_t^2}{2}}dz_t -e^{-rt}K \int _C \frac{1}{\sqrt{2\pi }}e^{-\frac{y_t^2}{2}}dy_t \]

第二段階

積分領域の変更は、まず$A$について、 \[A = \left\{ X_t \left| S_0e^{-\frac{1}{2}\sigma^2t+\sigma X_t}-e^{-rt}K>0 \right. \right\} \] 括弧内の条件式を変更する。移項して両辺の対数をとる。 \[-\frac{1}{2}\sigma^2t+\sigma X_t>-rt+\log \frac{K}{S_0} \] したがって、以下を得る。 \[ A = \left\{ X_t \left| X_t >\frac{\log \frac{K}{S_0}- rt +\frac{1}{2}\sigma^2t}{\sigma } \right. \right\} \]

次に$A\rightarrow B$の変更は、$X_t=z_t\sqrt{t}+\sigma t$を代入して、 \begin{eqnarray*} B &=& \left\{ z_t \left| z_t\sqrt{t}+\sigma t >\frac{\log \frac{K}{S_0}- rt +\frac{1}{2}\sigma^2t}{\sigma } \right. \right\} \\ &=& \left\{ z_t \left| z_t > \frac{\log \frac{K}{S_0}- rt -\frac{1}{2}\sigma^2t}{\sigma \sqrt{t}} \right. \right\} \end{eqnarray*}

同様に$A\rightarrow C$の変更は、$X_t=y_t\sqrt{t}$を代入して、 \[C= \left\{ y_t \left| y_t > \frac{\log \frac{K}{S_0}- rt +\frac{1}{2}\sigma^2t}{\sigma \sqrt{t}} \right. \right\} \]

第三段階

標準正規分布$\Phi(d)$は、$(-\infty ,d)$で計算されるが、いまの積分領域は逆転している。 しかし正規分布は偶関数(左右対称)なので、積分領域に-1かければ適応できる。 \[d=-\frac{\log \frac{K}{S_0}- rt -\frac{1}{2}\sigma^2t}{\sigma \sqrt{t}} \] とすれば、$C$の条件は、$d-\sigma \sqrt{t}$とできるので、 \[C_0 = S_0\Phi(d)-e^{-rt}K\Phi(d-\sigma \sqrt{t}) \] となり、ブラック・ショールズ式がえられた。$d$については、マイナスを分子にかけて、 \[d=\frac{\log \frac{S_0}{K}+ rt +\frac{1}{2}\sigma^2t}{\sigma \sqrt{t}} \] という表記もできる。



本項はほとんど計算なので、興味がなければ省略されたい。







































このような測度の変換いついては、なかなか分かり難いので項を改めて紹介したい。


































































リスク中立確率の考え方を使えば、計算のほとんどが積分領域の変更となっていることに驚かれるかもしれない。

















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