有限差分法(陰解法)

前項で偏微分方程式を数値的に解く陽解法を説明したが、陽解法は格子の縦横の幅の取り方によって解が収束せず、 不安定になることがあった。解の安定性についていえば、ここで説明する陰解法のほうが優れており、ほとんど確実に収束する。

 

陰解法の基本

ふつう陰解法は初期条件を元にして前進的に解いていくが、ここでは少し形式を変えて、陽解法と似た形で内容を説明しよう。

コールオプションはやはり期限期日の行使価格が定まっていることがもっとも明確であり、 この明らかな境界条件から後退的にオプション価格を求めるやり方がイメージしやすいからである。

もともとのブラックショールズの偏微分方程式を再掲すると、 \[ \frac{\partial C}{\partial t}+rS\frac{\partial C}{\partial S}+\frac{1}{2}\sigma^2S^2\frac{\partial ^2C}{\partial S^2}-rC=0 \] となっているので、これを差分方程式に変換する。

差分方程式への変換は、陽解法と同様の形式である。

まず満期までの期間tを微小単位$dt$でn分割し、$ndt=t$ とする。位置を$i=0,\cdots,n-1$ で表す。 次に株価変化の微小単位を$dS$とし、任意の株価を$S=jdS$ で表す。 横軸に時間、縦軸に株価をとった平面を考えれば、$(i,j)$ によって離散的な座標(格子点)が生まれる。 オプション価格は時間と株価の関数$C=C(t,S)$であるから、格子点ごとにオプション価格が定まる。 偏微分方程式は独立変数の微小変化と関数の変化との関係を表したものだから、 いくつかの格子点を使えばその格子点間のオプション価格の関係を表すことができるはずである。

次のように変化率を離散的に定義する。$C$の添え字は格子点の位置を表す \begin{eqnarray*} \frac{\partial C}{\partial t} &= & \frac{C_{i+1,j}-C_{i,j}}{dt} \\ \frac{\partial C}{\partial S} &= & \frac{C_{i,j+1}-C_{i,j-1}}{2dS} \\ \frac{\partial ^2C}{\partial S^2} &= & \frac{\frac{C_{i,j+1}-C_{i,j}}{dS}-\frac{C_{i,j}-C_{i,j-1}}{dS}}{dS} \\ &= & \frac{C_{i,j+1}+C_{i,j-1}-2C_{i,j}}{dS^2} \end{eqnarray*}

形式的には陽解法と同様に差分方程式を作り出すのだが、格子点が次のような位置関係になっていることに注意しよう。

格子点

そのまま偏微分方程式に代入して、差分方程式に変換すると、次のようになる。 \begin{eqnarray*} & & \frac{C_{i+1,j}-C_{i,j}}{dt} + rjdS\frac{C_{i,j+1}-C_{i,j-1}}{2dS} \\ & & \qquad + \frac{1}{2}\sigma^2(jdS)^2\frac{C_{i,j+1}+C_{i,j-1}-2C_{i,j}}{dS^2} -rC_{i,j}=0 \end{eqnarray*}

整理すると、 \begin{eqnarray*} C_{i+1,j} &=& \alpha C_{i,j+1} + \beta C_{i,j} + \gamma C_{i,j-1}\\ &\alpha & = \frac{dt}{2}\left( -rj - \sigma^2 j^2 \right)\\ &\beta & = \sigma^2 j^2 dt + 1 + rdt \\ &\gamma & = \frac{dt}{2}\left(rj - \sigma^2 j^2 \right) \end{eqnarray*}

$\alpha,\beta,\gamma$は定数であって、それ以外に既知な値は左辺の$C_{i+1,j}$だけである。

したがってこの差分方程式は、$C_{i,j+t}$、$C_{i,j}$、$C_{i,j-1}$を3つの独立変数とする方程式と考えられる。

すると上下にずらして三つの方程式を利用すれば、3元連立方程式となって解くことができる。

陰解法は、このように境界条件のオプション価格に対する連立方程式を解くことで、後退して数値を求めることが基本となっている。 \[C_i=A^{-1}C_{i+1} \] 計算の上では、このように係数の逆行列$A^{-1}$を利用して行うことになるので、計算量はかなり大きくなる。

 

上限値と下限値の近似

プットオプションであれば、オプション価格は$\max (K-S,0)$であるから、 最大$K$であり、最小$0$となって、上限と下限が設定できる。

しかしコールオプション価格は最小ゼロであるが、最大は定まらないので連立方程式が成立しなくなる。 どうしても上限と下限の境界値が定められないとき、格子点の数を限定したいときなどは、次のような近似を行うこととする。

<上限値の近似($j$が上限)>

\begin{eqnarray*} \frac{\partial C}{\partial t} &= & \frac{C_{i+1,j}-C_{i,j}}{dt} \\ \frac{\partial C}{\partial S} &= & \frac{C_{i,j}-C_{i,j-2}}{2dS} \\ \frac{\partial ^2C}{\partial S^2} &= & \frac{\frac{C_{i,j}-C_{i,j-1}}{dS}-\frac{C_{i,j-1}-C_{i,j-2}}{dS}}{dS} \\ &= & \frac{C_{i,j}+C_{i,j-2}-2C_{i,j-1}}{dS^2} \end{eqnarray*}

\begin{eqnarray*} C_{i+1,j} &=& \alpha C_{i,j} + \beta C_{i,j-1} + \gamma C_{i,j-2}\\ &\alpha & = \frac{dt}{2}\left( -rj - \sigma^2 j^2 \right) + 1 + rdt\\ &\beta & = \sigma^2 j^2 dt \\ &\gamma & = \frac{dt}{2}\left(rj - \sigma^2 j^2 \right) \end{eqnarray*}

<下限値の近似($j$が下限)>

\begin{eqnarray*} \frac{\partial C}{\partial t} &= & \frac{C_{i+1,j}-C_{i,j}}{dt} \\ \frac{\partial C}{\partial S} &= & \frac{C_{i,j+2}-C_{i,j}}{2dS} \\ \frac{\partial ^2C}{\partial S^2} &= & \frac{\frac{C_{i,j+2}-C_{i,j+1}}{dS}-\frac{C_{i,j+1}-C_{i,j}}{dS}}{dS} \\ &= & \frac{C_{i,j+2}+C_{i,j}-2C_{i,j+1}}{dS^2} \end{eqnarray*}

\begin{eqnarray*} C_{i+1,j} &=& \alpha C_{i,j+2} + \beta C_{i,j+1} + \gamma C_{i,j}\\ &\alpha & = \frac{dt}{2}\left( -rj - \sigma^2 j^2 \right)\\ &\beta & = \sigma^2 j^2 dt \\ &\gamma & = \frac{dt}{2}\left(rj - \sigma^2 j^2 \right) + 1 + rdt \end{eqnarray*}

適当な幅をとれば上下の境界値の近似は解にほとんど影響しないと言われている。

コールオプションの上限については、十分大きな$S$をとることで、$S-e^{-rt}K$ とする提案もある。

ほとんど確実に収束するので解は得られるが、格子の幅を注意深く検討しないとなかなか誤差の小さい値にならないのは、陽解法と同様である。

 













































































































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