ファインマン・カッツ公式の援用

さまざまな分野の偏微分方程式は、まずまっとうに方程式そのものを構成することがなかなか難しいが、 それを数学的に解くことはさらに本当にやっかいな仕事であって、わずかでも助けとなるものは、 すでに積み重ねられた研究を援用することであろう。

前項では昔から物理でよく知られた熱伝導方程式を利用して、ブラック・ショールズの偏微分方程式を直接に解き、オプション公式をもとめた。 その前に、ギルサノフの定理によってリスク中立確率による期待値を計算することでオプション公式を求めたので、 この二つの解法の関係についての疑問を持たれる方もおられよう。

つまり、元になる偏微分方程式と(条件付)期待値の二つの式の関係はどうなっているのであろうか? ということである。

この関係のもっとも簡便な説明として、確率論の中に偏微分方程式の解を確率的に求めるファインマン・カッツの公式を援用する方法がある。

ファインマン・カッツの公式は伊藤拡散過程の生成作用素(ジェネレータ)が微分作用素と等しくなることを利用して、 コルモゴロフの後退方程式の拡張として証明される。

ここではその公式の数学的な証明の内容に立ち入らずに、この公式とブラック・ショールズ式の解法との関係を簡単に説明しよう。 まず、ファインマン・カッツの公式は次のような内容を持つ。

<ファインマン・カッツの公式(エッセンス)>

確率過程$X_t$がドリフト項$m(X_t)$、拡散項$s(X_t)$によって、確率微分方程式$dX_t=mdt+sdW_t$に従うとする。ここで、下に有界な$r(X_t)$によって、 \[v(t,x)=E\left[ \exp\left( -\int _0^t r(X_s)ds \right)f(X_t) \right] \] とおくことができ、$v(0,x)=f(x)$とすると、 \begin{eqnarray*} & & \frac{\partial v}{\partial t}=m\frac{\partial v}{\partial x}+\frac{1}{2}s^2\frac{\partial ^2v}{\partial x^2}-rv \qquad (t\gt 0) \end{eqnarray*} が成り立つ。

 

ファインマン・カッツの公式を要約解釈して逆にいうと、偏微分方程式がうまく条件を整えられれば、 それが確率変数の期待値の解として表現できることを主張している。

したがって、ブラック・ショールズの偏微分方程式もその条件をファインマン・カッツの公式に合わせて整えることができれば、 オプション公式 \[ C_t=e^{-r(T-t)}E_q[\max (S_T-K,0)] \] の解として、直ちに偏微分方程式をえることができることを示唆する。

そしてその類推はまったく正しいのである。

ブラック・ショールズの偏微分方程式は、安全資産利子率$r$、 確率的な変化を持つ原資産の$S_t$に従う派生商品(オプション)価格を$C_t=C_t(t,S_t)$とおいたとき、 市場が無裁定であるならば$C_t$が従う微小変化の条件を、 \[ \frac{\partial C}{\partial t}+rS\frac{\partial C}{\partial S}+\frac{1}{2}\sigma^2S^2\frac{\partial ^2C}{\partial S^2}-rC=0 \] と表す。すでに幾度と繰り返したものである。

オプション価格は将来の行使期限$T$が定められ、現時点を$t$として求めたいため、$\tau =T-t$と新たな(時間)変数を定義すると、 $d\tau =-dt$となって、 \[ \left(\frac{\partial C}{\partial t}\right)=\left(\frac{\partial C}{\partial \tau}\right)\left(\frac{\partial \tau}{\partial t}\right)=-\frac{\partial C}{\partial \tau} \] によって、 \[\frac{\partial C}{\partial \tau}=rS\frac{\partial C}{\partial S}+\frac{1}{2}\sigma^2S^2\frac{\partial ^2C}{\partial S^2}-rC \] とでき、ファインマン・カッツの公式の形になる。

境界条件は行使価格$K$を使い、$t=0$のとき$\tau =T$で、$v(0,x)=f(x)=v(T,S_T)=\max(S_T-K,0)$となり、 安全資産利子率は$r$(一定)として、 \[v(\tau,x)= E\left[e^{-r(T-t)}\max (S_T-K,0)\right] \] となる。厳密な諸条件はともかくとして、これで表面上はファインマン・カッツの公式にオプション価格式が一致させることができる。

この期待値が偏微分方程式の解であるためには、原資産の確率過程の係数を偏微分方程式の係数にあわせる必要があり、実はそれは、 \[dS_t=rS_tdt+\sigma S_tdW_t \] となっていることを要請される。

すなわちファインマン・カッツの公式を適応して解を求めるならば、 原資産の株価過程はリスク中立確率に従うことが求められているのである。

そしてこのことはこれまでの説明の中で、すでに幾度と無く確かめてきた事実であろう。 したがってブラック・ショールズの偏微分方程式は熱伝導方程式を利用して解を求めるだけでなく、 ファインマン・カッツの公式を援用してリスク中立確率による期待値へ到る途があることになる。

あるいは、ブラック・ショールズ式は、それぞれに適当な操作を実施して解釈すれば、 ファインマン・カッツの公式に整合した期待値と偏微分方程式の関係になっている。

この項は不十分さ満載なことは重々承知だが、残念ながら前項以上に中途半端でトンチンカンな説明しかできないので、 興味をもたれればぜひご自身でチャレンジされたい。

 




天下り型の公式援用ばかりで、ストレスや不満のお持ちの方は、ぜひ新たな解法にチャレンジされたい。































































































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