リスク中立確率の選択

ブラック・ショールズのオプション公式を解くに当たっては、リスク中立確率が重要な役割を占めるものであった。

繰り返す二項モデルの計算の中で、いろんな形でとりあげてきたので、あらためて簡単に整理しておこう。

 

リスク中立確率111

 

1行目がコックス、ロス、ルービンシュタイン(CRR)モデルである。

極限をとればいずれも同じ帰結をみるが4行目がブラック・ショールズモデルにもっとも近いものとなっていて、 ギルサノフの定理で無効化するリスクの市場価格$((\mu-r)/\sigma)$ が現われてきている。

ところで、これまでいくつかのモデルを適宜利用していろいろな計算を行ってきた。 基本となるものは、 \[ e^{-r}(uSq+dS(1-q))=S \] であって、時々の計算によってリスク中立確率$q$を得て、とくべつな疑問もなく適応してきた。

しかしあらためて このような表に整理されると違和感をもたれた方はいないであろうか。

まず疑問のひとつは、複数種類のリスク中立確率を認めるということだろう。

もともと、リスク中立確率はわれわれが勝手に持つリスクプレミアムを打ち消して、所定の安全資産利子率に切り替えるものである。

われわれのリスクプレミアムを含んだ期待を自然確率というならば、それは投資家各自それぞれであって、 これをいつも一つの値にするべく、リスクプレミアムを打ち消す作用を持つリスク中立確率もまた、 投資家それぞれの自然確率に対応したいろいろなものになる。

つまり、モデルごとにリスク中立確率は異なってくることは不思議ではないということである。

われわれが目標としていたのは、だれもが認める適正なコールオプション価格であって、それはひとつの値としたい。 各自それぞれなオプション価格では適正とはいえないからである。

そのために各自それぞれなリスクプレミアムを取り除くリスク中立確率を人工的に構成した。

リスク中立な世界とは、すべての資産がリスクと無関係であるが故に、収益率は安全資産利子率となる。 リスク中立な世界ではだれもが同じ予想をするから、そこでだけは一つの値が定まるのである。

この表はどのような状況であっても、リスク中立な世界を生み出す確率過程がいろいろあること、 またいろいろなければならないことを主張している。 これは数学的には確率測度の変換がいつも自在に行われなければならないことを意味するのである。

 





















いろんな確率を変換する作業を、確率測度変換という。
















































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