ブラック・ショールズ公式への道

最初にブラック・ショールズ式を知ったときに、いくら困難な作業であるとはいえ、 なぜ偏微分方程式を解いただけでノーベル賞なのであろうと、いぶかった思い出がある。

説明の下手さ加減で、うまく伝わらないとすれば残念至極だが、いろんな形式でオプション公式を求めてみると、 この公式にいたるうえで形成された新鮮で実り豊かな概念の数々に出会うこととなる。

さらに得られたオプション公式そのものも幅広いテーマで応用されており、そういった眺望が実感できるようになると、 公式を頂点としたおおきなパラダイムが、世界の賞賛に十分値するものと感じられるようになったような気がする。

ここまで、オプションプライシングにおいて、その議論の中心となるブラック・ショールズ公式をいくつかの方法で求めてきた。 あらためてそれらを整理し、相互関係を明らかとしておこう。

収益率

まず資産の収益率をどのように捉えるかというところから始まる。一つは対数収益率であり、もう一つは瞬間収益率である。

しかし採用した二つの収益率の見方は、時間を微小に限って、確率的でない変数であると見たときはテイラーの定理、 あるいは伊藤の補題によって近似的に等しいことが分かっている。 つまり、ふつうによく言われる「株価は対数正規分布する」という前提からスタートしているということである。

その意味では、無限の対応を加え、確率変数への処置を施して、いくつかの道をたどっても、それらが数学という厳密性に裏付けられるのなら、 最後にたどりつくものが、ただひとつのブラック・ショールズ公式であることは、同一の出発点であるのだから、あながち頷けないものでもなかろう。

価格モデル

株価の変動をどのように構成するかはその後の思考の進め方に大きく影響する。 なぜなら株価のモデルとは株価の変動に条件を与えていることに他ならないからである。

対数収益率を明確にして、それを取り扱いやすく自然なモデルとすれば二項モデルとなり、 瞬間収益率ですすめようとするとそれは連続モデルとなる。

ここでも中心極限定理という無限の対応と確率変数の無視できない変化量の処置を施せば、等価な式が得られる。

しかし、ブラックとショールズが進んだ当初の道は原資産の株価のモデルを考えることではなかった。

彼らはより直線的にポートフォリオ管理の知識を使って複製ポートフォリオを構築し、 原資産の価格変動を飛び越えて、より一般的にデリバティブ(原資産の価格に従う派生資産)の価格が従う偏微分方程式条件を見つけ出した。

原資産の瞬間収益率を仮定することで、デリバティブの価格変動モデルとして偏微分方程式を得て、それからいっきに解を得たのである。

リスク中立確率

最終的にオプションの価格を求めるために決定的な役割を果たすのが、リスク中立確率である。

リスク中立確率は、リスクのまったく無い世界を構成する。リスクの無い世界、したがってすべての資産は不確実性を持たず、 収益率は安全資産利子率となる。

われわれは当然不確実な世界に住んでいるから、資産は不確実性=リスクのプレミアムを持ち、収益率は安全資産利子率ではない。 この不確実な世界を無リスクに切り替えるのがリスク中立確率である。

株価を二項モデルでとらえれば、2元連立方程式は解を持つので、リスク中立確率は明示的に求められる。 そして二項モデルは単独の株価というより多数の株価による分布を作り出す作業であるので、 リスクのある分布の形を変形しリスクのない確率分布にするということがイメージしやすい。

連続モデルはどこまで時間を経ても単独の株価であるから確率という適応が分かりにくくなる。 しかしリスク中立確率とは分布変換の操作であるが目標とすることはリスクプレミアムを取り外すものであるから、 刻々と変化する株価にリスクプレミアムが含まれないようにすればよい。

ブラウン運動=ウィーナー過程の挙動に操作を加えることでリスクプレミアムを消し去り無リスクな挙動にすれば、 それはリスク中立確率の適応となるのであって、そのことを裏付けるのがギルサノフの定理である。

ではブラックとショールズが行った偏微分方程式の解法はリスク中立確率を利用していないのであろうか。 実は偏微分方程式を求めたときに利用している複製ポートフォリオの概念はリスク中立確率の適応なのであった。

そして、偏微分方程式が期待値解を持つためには原資産の株価過程がリスク中立確率による株価過程となることを要請するのが、 ファインマン・カッツの公式であった。

では、いつもリスク中立確率はわれわれの世界に存在するのであろうか。 それはファイナンスの基本定理と呼ばれる裁定定理が保証する。すなわち、市場が無裁定であるならリスク中立確率が存在するのである。

まとめ

ブラック・ショールズのオプション公式に至るためには、収益率と資産モデルを設定し、 それにどのような方法でリスク中立確率を適応するかを定めるかがすべてである。

 

BS公式への道

 










いくつかのBS式の応用はこの後に取り上げよう。



























































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