アメリカン・プットオプション

続いてプットオプションについても比較してみよう。

コールオプションと同様に、行使期限での取引と、期間内行使による取引の満期日時点の価値を求めておく。 ただしやはり同様に、両取引とも取引が完全に終了した満期日には、原資産である株式を保有しているものと考えておく。

満期日まで権利保留した場合、当然、 \[ V^*=\max(K-S_T,0) \]

期間内行使の場合、行使日を$t(\lt T)$とすると、 \[ V=(K-S_t)+(Ke^{r(T-t)}-K)=Ke^{r(T-t)}-S_t \] 一つ目の第二項の括弧は行使日から満期日までの行使価格による運用金利を考慮している。

ここで前項と同様に場合分けをする。 \[ S_T\lt K\quad の場合、\quad V^*-V=(S_t-S_T)-(Ke^{r(T-t)}-K) \] \[ S_T\gt K\quad の場合、\quad V^*-V=-(Ke^{r(T-t)}-S_t)\lt 0 \] となる。

$S_T\gt K$の場合は、$V^*\lt V$であるから、期間内での権利行使が有利であることが分かる。

しかし、$S_T\lt K$の場合は、権利行使した際の収益と行使価格から上がる運用金利との大小によってどちらが有利か分からない。 大きく値下がりしていれば権利行使による益が運用益を上回り有利となるが、 わずかな値下がりで運用益が大きければ満期までの権利留保が有利となる。

従って、アメリカンプットオプションは常に権利留保が有利であるとは言えず、その価格計算にはブラック・ショールズの公式はそのまま利用できない。

<アメリカンオプションのプットとコール価格の関係>

ブラック・ショールズの公式が一部利用できないことから推察されるであろうが、 権利行使の有利、不利が金利の大小や行使時の益の大小に依存することから、 アメリカンオプションのコールとプットの関係はヨーロピアンのように双対ではない。

したがって、アメリカンオプションにはプット・コール・パリティの関係は成立しない。しかし、次のように価格範囲を求めることはできる。 \[ C_0+Ke^{-rT}-S_0\lt P_0\lt C_0+K-S_0 \]

アメリカンプットオプションの価格$AP$、アメリカンコールオプションの価格$AC$、 ヨーロピアンプットオプションの価格$EP$、ヨーロピアンコールオプションの価格$EC$、 同一の行使期限(期間)、行使価格$K$としよう。すると、期間内の行使価値が伴うことから、 \[ AP\gt EP \] である。

ヨーロピアンオプションにあるプット・コール・パリティを使って、$EP=EC+Ke^{-rT}-S_0$とすれば、$EC=AC$であるから、 \[ AP\gt AC+Ke^{-rT}-S_0 \] となって、片方の不等式が得られた。

もう一方の不等式は、次に少しテクニカルだが、コールオプションと、権利行使価格と同額のキャッシュと、空売り原資産のポートフォリオを構築する。

このポートフォリオの満期日の価値は、 \[ V^*=\max(S_T-K,0)+Ke^{rT}-S_T \] となる。

アメリカンプットオプション$AP=\max(K-S)$とこのポートフォリオとの価値を比較すると、場合分けをして、 \[ S_T\gt K\quad の場合、\quad V^*-AP^*=S_T-K+Ke^{rT}-S_T-0>0 \] \[ S_T\lt K\quad の場合、\quad V^*-AP^*=0+Ke^{rT}-S_T-K+S_T>0 \] となる。

満期日では常にポートフォリオの方がアメリカンプットより価値が高くなることがわかる。

この比較において、アメリカンプットが期間内$t$に権利行使された場合を考えると、$S_T\lt K$であるから、 \[ V-AP=C_t+Ke^{rt}-S_t-K+S_t\gt 0 \] であって、コールオプションの価格は少なくとも正であるから、$V\gt AP$ となる。

従って、このポートフォリオは行使期間内であろうと満期日であろうと、常にアメリカンプットオプションの価値を上回ることになる。故に、 \[ AP\lt AC+K-S_0 \] 先ほどの不等式とあわせて、プットオプションの価格幅が求められた。























































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