二項モデルの超過収益率

原資産の超過収益率

不確実な市場の資産の超過収益率はどうなっているのだろうか。リスクは安全資産利子率を上回る超過収益率に見合うものであるから、 リスクのヘッジやコントロールを考えるにあたっては、リスクに見合った超過収益率の有り様を見ておくべきだろう。

当然リスクが高いものが高い超過収益率となるはずである。ではリスク当りではどうであろうか。すでに我々はCAPMの知識によって、 効率的なポートフォリオ(効率的フロンティア上のポートフォリオ)はすべて同一のリスク一単位当りの超過収益率を持っていることを知っている。 派生資産が導入された市場ではどうなるのであろうか?

不確実性のある資産の市場でのリスク当たり超過収益率を求めることからはじめよう。安全資産利子率を$r$とすれば、 リスク当りの超過収益率は期待収益率$\mu$とリスク$\sigma$を求めて、 \[ M=(\mu-r)/\sigma \] を計算することで得る。

これまでのように分かりやすい離散型の二項モデルで議論を進める。 一般二項モデルは$t$期間をn個に分割$ndt=t$とし、この一つ一つの微小期間の将来時点に二つの状況を想定し、株価$S$を変動率$u,d$で、 \[S_t=S_0u^xd^{n-x} \] \[ u=\exp(\mu dt-\frac{1}{2}\sigma^2dt+\sigma \sqrt{dt}) \] \[ d=\exp(\mu dt-\frac{1}{2}\sigma^2dt-\sigma \sqrt{dt}) \] として表す。$x$は変動$u$が発生した回数である。ブラックショールズの株価過程に歩調を合わせる為に($\sigma^2dt/2$)を追加してある。

我々が求めたいものは、この資産のリスク当り超過収益率である。個々の微小期間で議論しておけば十分であるから、自然確率を$p=1/2$とすれば、 \begin{eqnarray*} E[(S_1-S_0)/S_0] &= &pu+(1-p)d-1 \\ &= &p(1+\mu dt-\sigma^2dt/2+\sigma\sqrt{dt}+\sigma^2dt/2) \\ & &+(1-p)(1+\mu dt-\sigma^2dt/2-\sigma\sqrt{dt}+\sigma^2dt/2)-1 \\ &= &2p\sigma\sqrt{dt}+\mu dt-\sigma^2dt/2-\sigma\sqrt{dt}+\sigma^2dt/2\\ &= & \mu dt \end{eqnarray*} すなわち期待収益率は、$\mu dt$となる。

続いてリスクを求めよう。 \begin{eqnarray*} V[(S_1-S_0)/S_0] &= &V[S_1/S_0] \\ &= & E[S_1/S_0]^2-\left\{E[S_1/S_0]\right\}^2\\ &= & pu^2+(1-p)d^2-[pu+(1-p)d]^2\\ &= & p(1-p)(u-d)^2\\ &= & p(1-p)[1+\mu dt-\sigma^2dt/2+\sigma\sqrt{dt}+\sigma^2dt/2\\ & & -(1+\mu dt-\sigma^2dt/2-\sigma\sqrt{dt}+\sigma^2dt/2)]^2\\ &= & p(1-p)(2\sigma\sqrt{dt})^2\\ &= & \sigma^2dt \end{eqnarray*} 期待収益率の分散(リスク)は、$\sigma^2dt$となる。最後に$p=1/2$を代入している。

従って、安全資産利子率は$rdt$であるから、この資産のリスク当りの超過収益率$M(S)$は、 \[M(S)=\frac{\mu -r}{\sigma}\sqrt{dt} \] となっている。

コール・オプションの超過収益率

続いてこの資産の派生証券となるコールオプションのリスク当り超過収益率を求めてみよう。

オプションは株価の変動に合わせて、二つの状況が想定できる。現在のオプション価格$C$に対して、 将来の$C_1$は行使価格$K$と原資産株価$uS,dS$によって表される。 微小時間の将来時点のオプション価格$C_1$を$\max$関数が煩わしいので簡略化して、 \[\max(uS-K,0)=C_u \] \[\max(dS-K,0)=C_d \] とおく。

すると期待収益率は、自然確率$p=1/2$として、 \[E[(C_1-C)/C]=(C_u+C_d)/2C-1 \]

続いて、リスクは、 \begin{eqnarray*} V[(C_1-C)/C] &= &V[C_1/C] \\ &= &(1/C^2)V[C_1] \\ &= &(1/C^2)(E[C_1^2]-(E[C_1])^2) \\ &= &(1/C^2)(C_u^2/2+C_d^2/2-(C_u+C_d)^2/4) \\ &= &((C_u-C_d)/2C)^2 \end{eqnarray*} となるので、リスク当りの超過収益率$M(C)$を求める。 \begin{eqnarray*} M(C) &=& \frac{\left(\frac{C_u+C_d}{2C}-1\right)-rdt}{\frac{C_u-C_d}{2C}}\\ &=& \frac{C_u+C_d-2C(1+rdt)}{C_u-C_d} \end{eqnarray*} ここでリスク中立確率$q$を使って、$C=\left\{qC_u+(1-q)C_d\right\}/(1+rdt)$を代入、 \begin{eqnarray*} M(C) &=& \frac{C_u+C_d-2qC_u-2(1-q)C_d}{C_u-C_d}\\ &=& 1-2q \end{eqnarray*} さらに、$q=(e^{rdt}-d)/(u-d)$($u,d$は変動率)を代入すると、 \begin{eqnarray*} M(C) &=& \frac{u+d-2e^{rdt}}{u-d}\\ &=& \frac{2+2\mu dt-2(1+rdt)}{2\sigma \sqrt{dt}}\\ &=& \frac{\mu -r}{\sigma}\sqrt{dt} \end{eqnarray*} となって、原資産の超過収益率に一致することがわかる。2行目はテイラー展開によって近似している。

もちろん原資産とこのオプションの期待収益率やリスクは異なる。しかしリスク当りの超過収益率は一致するのである。 しかも計算の過程では特別な公式は利用していない。唯一利用したのは無裁定条件に基づくリスク中立確率である。

オプション資産だけの検証でいきなり全体的な結論を述べることは強引に感じられるかもしれないが、 市場は、無裁定であるならば、どのようなリスク資産であっても、その資産のリスク当り超過収益率は同じ値をとることが予測されるのである。












原資産のリスクあたりの超過収益率は、もはや求めるまでも無いかもしれない。
(式の都合や計算期間や単位を合わせるためにやっておこう。)







































































































結局、CAPMと同一の結論が得られる。

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