ボラティリティ

いろいろ議論してきたブラック・ショールズ式をもう一度挙げておこう。

\[ C_0=S_0\Phi(d_1)-e^{-rt}K\Phi(d_2) \quad ,\quad \Phi(d)\sim N(0,1) \] \[ d_1=\frac{ \log\frac{S_0}{K}+rt+\frac{1}{2}\sigma^2 t}{\sigma \sqrt{t}}\quad ,\quad d_2=d_1-\sigma \sqrt{t} \]

もうずいぶん昔のことだが、最初にこの式を見知ったとき、なぜこれでノーベル賞なのだろうと不思議であったことを思い出す。 確かに偏微分方程式を解くことは相当の試行錯誤を重ねる努力が必要であるが、それでもそれほどのものなのだろうかと訝った。

しかし、コール、プット、ヨーロピアン、アメリカンという当時皆が取扱いあぐねていた新しい金融取引だけではなく、 株式、債券、金利と対象資産が拡大し、リアルオプション、企業価値の試算にまで適応が進んでいき、 式そのものを支えるさまざまな考え方の適応の広さを知ると、自らの知識の広がりに応じてその疑いがゆっくりと氷解した。

偏微分方程式を解くことは不屈の努力の結果であろうし、 解くにあたって組上げたさまざまな考え方もまた新規性にとんだアイデアであることに理解が進むにつれてであった。

最初はいかめしさだけを感じたものが、いまでは簡明でまことに美しいと思えるようになったが、 お読みになられている方々はいかがであろう。

さて久しぶりの感慨はこれぐらいにして、現実問題としてブラック・ショールズ式を利用するにあたっては、 安全資産利子率$r$が市場の共通の明らかな値であるとすると、期間$t$など大体の変数は事前に定まっているので、 \[ C_0=C(\sigma) \] という関数となる。関数の値を知るためには残る唯一の未知のパラメータ$\sigma$(ボラティリティ)をいかに定めるかという問題が残される。

本項からは未知のボラティリティ$\sigma$を定めるために、パラメータの推定に関して、その初歩と背景を簡単に紹介しておこう。

議論の焦点を先に述べておくと、現実の数値からの推定となると離散的な数値を扱わざるを得ない。 しかし、離散型の標本値の計算にもいくつかの方法があって、組み立てられた理論や考え方に整合した標本値の適応が好ましいということである。

手じかにあるからと言って不用意に標本値の当て嵌めを行うと予想以上の乖離を生むことがあるから、 自ら使用する標本値の出来の背景を知っておくことは大事なことである。

本格的な議論に入る前に、ちょっと混乱しやすい簡単な統計のおさらいをしておこう。

  1. (資産)収益率の表現
  2. 標本からの推定
  3. 最尤法の適応






































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