ボラティリティの実証研究

実証分析による研究では、収益率とボラティリティについてつぎのような現象と問題点が指摘されている。

(1)収益率の分布は、正規分布よりも裾が厚い。(しかも歪んでいる。)

 →ファット・テイル

(2)ボラティリティは時間で変動し、ショックは持続する傾向がある。ボラティリティが大きくなると大きい状態が継続し、 また逆にボラティリティが小さくなると小さい状態が継続する傾向がある。 (また、価格が下がったときの方が上がったときよりボラティリティは上昇する。)

 →ボラティリティ・クラスタリング

(3)資産の内容そのものが構造変化を起こしているケース(例えば、日経平均を算出する銘柄の大幅な入替え)を認めれば、 本来一つのパラメータではない。

 →中心回帰への疑問

現実とモデルの乖離についての疑問や議論は少なくない。

 

ボラティリティ$\sigma$の実証研究は、時系列分析のARCH(自己回帰型条件付分散不均一)モデルを利用することから進んだ。 もっとも基礎的な収益率$m_t$に関する$ARCH(1)$は、 \[ m_t=\mu+\epsilon_t\sqrt{a_0+a_1(m_{t-1}-\mu)^2}\qquad (a_0\gt 0,0\lt a_1\lt 1,\epsilon_t\sim iid(0,1)) \] と表される。

大雑把に言えば、分散$\sigma_t^2$が、$a_0+a_1(m_{t-1}-\mu)^2$であるとみれば分かりやすいかもしれない。

つまり、分散が1期前の(分散)値に依存している。パラメータ$a_0=1,a_1=0$ならば前期への依存は無くなり、 さらに$iid(0,1)$を$N(0,1)$と仮定すればランダムウォークとなる。

いまn個のデータ$(m_1,\cdots,m_n)$がすでにあって、これらを使ってパラメータを推定することを考えよう。

分布$\epsilon_t$を標準正規分布$N(0,1)$で仮定すれば$m_t$の条件付き分布はやはり正規分布となる。

\[ m_t\sim \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma_t^2}}\exp\left(-\frac{(m_t-\mu)^2}{2\sigma_t^2}\right) \qquad (\sigma_t^2=a_0+a_1(m_{t-1}-\mu)^2) \]

そこでn個の標本データがあれば最尤法を利用して、尤度方程式を求める。 \[ \log L=-\frac{n}{2}\log(2\pi)-\frac{1}{2}\sum_{t=1}^n \log(\sigma_t^2)-\frac{1}{2}\sum_{t=1}^n \frac{(m_t-\mu)^2}{\sigma_t^2} \]

この$\log L$を最大化するパラメータ$\mu,a_0,a_1$を数値計算で求めるというのが、ふつうとられている推定方法となる。

モデルは複雑になるが、分布$\epsilon_t$を正規分布ではなく$t$分布に変更することで、 裾厚の分布を仮定してパラメータ推定をすることもできる。

そしてARCHをさらに一般化した$GARCH(1,1)$モデルが試みられた。 \begin{eqnarray*} X_t&= &m_t-\mu=\sigma_t\epsilon_t\qquad (\epsilon_t\sim \mbox{White Noise}) \\ \sigma_t^2&= &a_t+b_t(X_{t-1}+d|X_{t-1}|)^2+c_t\sigma_{t-1}^2\qquad(d\in[-1,1]) \\ a_t&=&a_0(1-w_t)+a_1w_t\qquad(a_0,a_1\gt 0)\\ b_t&=&b_0(1-w_t)+b_1w_t\qquad(b_0,b_1\gt 0)\\ c_t&=&c_0(1-w_t)+c_1w_t\qquad(c_0,c_1\gt 1)\\ w_t&=&\left\{\begin{array}[lll] \\ 1 &:&P\left\{w_t=1|w_{t-1}=1\right\}=p,\quad P\left\{w_t=1|w_{t-1}=0\right\}=1-q \\ 0&:&P\left\{w_t=0|w_{t-1}=1\right\}=1-p,\quad P\left\{w_t=0|w_{t-1}=0\right\}=q \end{array}\right. \end{eqnarray*}

この予測モデルは、1期前の履歴$\sigma_{t-1}$をノイズの2乗で引きずりながら、 状態変化$w_t$と価格上げ下げの影響を取り入れることができるようになっている。 これら時系列分析は章を改めて紹介したいと思う。

最近の研究では、複雑な式でも数値を求めるためのシミュレーションの高度化や裾厚の分布であることに着目した 極値理論の応用も進んでいる。

ブラックショールズ式を使ってオプションの価格を求めたいという原始的な要求に対して、 唯一不明なパラメータであるボラティリティの追求は、標本統計の手法は過去のデータから、 インプライドボラティリティはまさに現在のデータから計測しようとする試みであった。

ボラティリティが資産のリスクを表すものならば、それは定数であるかどうかとか、 定常性があるかどうかという数々の疑問のとおり、いまだ誰も見たことのないものであって、 未知のものに迫ろうとする研究はまだまだ続いている。






















































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