リスクの計測

リスクの計測と尺度について考えておこう。

リスクの計測

ファイナンスにおけるリスクは、資産の価格が上下変動する可能性であるとした。 保有している資産の価格が下がる可能性を受け入れることで、上がる可能性を期待するのである。

このように置いたとき、リスクについてもっともよく受ける質問は、株価が上がるときもリスクがあるのでしょうか? というものである。質問の背景は、買った株価が上がるだけなら損はしないのだからリスクは無いだろうと考えるところにある。 短期的には上昇するばかりの局面は十分あるので、まことにもっとも指摘だろう。

社会一般の通念としては、リスク=損失につながる可能性であって、特に倒産リスクなどという言葉があるものだから、 このような質問が出てきても決して不思議ではないし、価格上昇するばかりならば、リスクはないと見るだろう。

しかし、ファイナンスにおいては、リスクは上下変動する可能性とするので、リスクはある。 そして、リスクを収益率の分散(あるいはその平方根である標準偏差)で表すことを基本としている。すなわち、 \[ V(r_t)=\sigma^2=E(r_t-E(r_t)))^2 \] である。説明書きどおり、元に戻って価格の式とするなら、現時点を$s$、将来を$t$とすれば、 \[ V(r_t)=V\left( \frac{P_t-P_s}{P_s} \right)=\frac{V(P_t)}{P_s^2}=E\left(\frac{P_t-E(P_t)}{P_s}\right)^2 \] となり、確かに将来の価格の変動の可能性になっている。

ちなみに冒頭の質問には、もし買いではなくて空売りしていたら困るだろうと、とりあえず答えることにしている。

 

リスクの指標

リスクは安全資産の利子率を上回る収益率に引き換えられるものとすると、 単純にリスクが高い、リスクが大きいという言葉は適当ではないかもしれない。 なぜなら、高い収益率を目指せば、高いリスクを受け入れなければならないのは当たり前だろう。 ちょっと踏み込んで考えると、期待する収益に見合ったリスクであるかということを知りたくなる。

われわれが考えたいのは実はリスクそのものではなくて、リスクとリターンの関係である。 なぜならリスクとリターンは正の相関であるから、リスクが大きいといえばふつうリターンは大きくなっている。 リスクを下げればリターンも下がっているのが普通だろう。

しかし、その事柄は保証されているわけではないので、高いリスクの割りに期待する収益率が低かったりすると困るし、 低いリスクの割りに高い収益率であるなら、誰もがその資産をほしくなるだろう。 それゆえ、リスクに見合ったリターンであるかどうかが重要となってくる。

 

シャープメジャー

任意のリスクある資産の収益率を$r^a$、安全資産の収益率を$r^f$とすれば、 シャープメジャーはつぎのように表される。 \[ \frac{r^a-r^f}{\sigma^a} \] すなわち、リスク一単位あたりの超過収益率である。

これならばリスクを加味したリターンあるいはパフォーマンスの比較評価が可能となる。 シャープメジャーは、リスクの市場価格(Market Price of Risk)とも呼ばれる非常に重要な指標である。 後に説明する裁定定理のひとつのバージョンとして、市場が無裁定であるならば、 すべての資産のリスクの市場価格が等しい値で存在することが証明されるのである。

トレイナー測度

トレイナー測度は、CAPMのベータを使って、 \[ \frac{r^a-r^f}{\beta^a} \] と表される。すなわちマーケットとの相関リスク一単位当たりの超過収益率である。

ざっといえば、資産のリスクはシステマティックリスクと固有リスクに分解されるというのがCAPMである。 どの資産にもマーケット・ポートフォリオのリスクが含まれるとすれば、 システマティック・リスクの主要部分はベータとみることができよう。 トレイナー測度はそのベータ一単位あたりの超過収益率を求めていることになる。

言い換えれば、構築されたポートフォリオが適切に固有リスクを解消していないと、 トレイナー測度は資産全体のリスクをあらわさない。 個別資産にトレイナー測度を適応するのはよく理解したうえでないと無理があることになる。























ファイナンスでは上下変動の可能性をボラティリティと呼ぶ。




分散は統計学においては確率変数のばらつきを表す指標である。



ボラティリティは分散よりも標準偏差を指すことが多い。































これらは、裁定定理やCAPMの説明の後に、もう一度振り返られたい。

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