リスク最小化(その2 注意点)

2資産からなるポートフォリオの場合のリスク最小となる投資配分比率が求められた。 \begin{eqnarray*} & &\sigma_p^2= w_1^2\sigma_1^2+(1-w_1)^2\sigma_2^2+2w_1(1-w_1)\sigma_{12} \end{eqnarray*} とおいて、 \[ w_1=\frac{\sigma_2^2-\sigma_{12}}{\sigma_1^2+\sigma_2^2-2\sigma_{12}},\quad w_2=1-w_1 \] である。

この求められた比率は、リスク資産の組み合わせによるポートフォリオであるならば、 リスクとリターンの平面においては(軸が逆転しているが)2次関数(双曲線)であるから、 明らかに次の左に張り出した弓形の弧のグラフの最左端となる頂点(黒い◆点)を指していることになっている。

return-curves

ほとんど無条件で求められたこの構成比率による最小リスクは、 微分法の2階条件が満足されているとすれば大域的にも最小であるから、 グラフ上のどこかにあるポートフォリオを構成するもっとも低いリスクの個別資産のリスクより、 さらに低くなっている可能性があることになる。

例えばリスクの低い方の資産の収益率がrであるならば、 そのリスクは双曲線との交点+であるが、選ばれたポートフォリオのリスク◆点は明らかにこのリスクよりも左にあって低い。 しかも収益率も向上している。ポートフォリオ構築の意味が生まれていることになる。

しかし、そのようなことは微分の2階条件以外に、一般的に常に断定はできない。リスク・リターン平面の項の繰り返しとなるが、 簡単に触れておこう。

相関係数が1の場合は、◆点と+点は同一の点となって、二つのリスク資産のうちの小さいものに一致する。 それはポートフォリオのリスク・リターン平面上のグラフの様相が異なって、2次関数ではなく直線となっており、 \[ r_p=\frac{r_a-r_b}{\sigma_a-\sigma_b}\sigma_p+\frac{r_b\sigma_a-r_a\sigma_b}{\sigma_a-\sigma_b} \] によって定まる。傾きは正なのでどちらかの小さいほうに片寄せすることが最小化となる。 リスクの小さいほうの資産を$a$として、$r_p=r_a$と代入すれば、$\sigma_p=\sigma_a$となる。 $w=(1,0)$である。

相関係数が-1の場合も同様の現象がでる。先の項の三角形の上側の直線を選ぶために符号に注意するとポートフォリオは、 $w_a\sigma_a-w_b\sigma_b\ge 0$の一方だけやっておくと、、 \[ r_p=\frac{r_a-r_b}{\sigma_a+\sigma_b}\sigma_p+\frac{r_a\sigma_b+r_b\sigma_a}{\sigma_a+\sigma_b} \] と表されるから、 \[ r_p=\frac{r_a\sigma_b+r_b\sigma_a}{\sigma_a+\sigma_b} \] と定めれば、$\sigma_p=0$とできる。 この$r_p$は、$r_a$と$r_b$の間にある値であることは引き算すれば簡単に分かる。 そして無裁定であるならばこれは安全資産ポートフォリオであって、構成比率は、 \[ w_a=\frac{\sigma_b}{\sigma_a+\sigma_b},\quad w_b=\frac{\sigma_b}{\sigma_a+\sigma_b} \] となる。

このケース以外にも様相が異なる場合がある。微分条件で求めた構成比率の式を見ると、 もし資産$a$がリスクのない資産(安全資産)であるなら、$\sigma_a^2=\sigma_{ab}=0$であるので、 $w_a=1$つまり$w=(1,0)$ となり、投資全額を資産$a$に振向けるポートフォリとなる。 なぜならこのときポートフォリオのリスクは、$\sigma_p^2=0$と最小化される。

無リスク資産とリスク資産によるポートフォリオの場合は、 リスク・リターン平面上のポートフォリオのグラフは2次関数ではなく、 やはり次のように直線になっていると考えられる。斜めの線分の右の端がリスク資産を表している。

return-straight line

どれだけたくさんのリスク資産を組み入れようとも、一つの安全資産を入れてしまって、リスク最小化をはかれば、 その結果は安全資産への全額投資になるのである。

したがって、当たり前のことだが、単純なリスク最小化は、 安全資産が含まれたポートフォリオの場合にはわれわれに意味のある解とならない。 構築されるポートフォリオは、その中に安全資産が含まれるか含まれないかで、 リスク・リターン平面上の様相が異なることは注意するべき重要な事柄である。

多数の資産を組み入れる場合は、少しは気を配らねばならない事柄であろう。

 




































































inserted by FC2 system