リスク分散

個別資産の組からなるポートフォリオについて、単なるリスク削減を目標とすると、 投資家の期待にふさわしい配分比率にならないケースがありうるのであった。

では、もう一歩を別方向に進んで、一律均等な配分について考えておこう。 ポートフォリオにおけるこのような配分は現実的ではないが、そこでさらに極端な設定を行うと、 理論的には興味深い結論が得られることになる。

n個の個別資産からなるポートフォリオの収益率、リスクは、これまでの記号を使えば、 \[ r_p=\sum_{i=1}^nw_ir_i \] \[ \sigma_p^2=w^t\Sigma w =\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nw_iw_j\sigma_{ij},\qquad (i,j=1,2,\cdots,n) \] となる。

リスクの定義を見て資産の数が増えれば、個々の分散よりも共分散の数がはるかに多くなることが見て取れるであろうか。 各資産への配分を等額として構成比率を一律に$w=1/n$とするポートフォリオを想定する。 \[ \sigma_p^2=\left(\frac{1}{n} \right)^2\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n\sigma_{ij} \] である。個々の分散の項数はn個、共分散の項数は$(n^2-n)$個となっていることを確かめておかれたい。

ここで荒唐無稽だけれど、すべての分散とすべての共分散が同一の値をとるとしよう。 \[ \sigma_{ii}=\sigma^2,\quad \sigma_{ij}=\rho^2\qquad (i,j=1,2,\cdots,n) \] すると、 \begin{eqnarray*} \sigma_p^2& =&n\left(\frac{1}{n} \right)^2\sigma^2+(n^2-n)\left(\frac{1}{n} \right)^2\rho^2 \\ &=& \left(\frac{1}{n} \right)\sigma^2+\left(1-\frac{1}{n} \right)\rho^2 \end{eqnarray*} になる。

さらに組み込み資産の数を増やして、$n\rightarrow\infty$とすれば、右辺の第1項が消えて、第2項だけが残ることになる。 ポートフォリは単純に組込み資産の数を増やせば、個々の資産のリスク(分散)のポートフォリオへの影響度はゼロとなっていき、 共分散の影響だけが消えず増えていくことになる。

すべての資産の分散と共分散が同一値とはならないし、$\rho^2=\sigma_i\sigma_j\rho_{ij}$なので、 数を増やせば個別のリスクが消えるというのは言い過ぎかもしれないが、共分散だけが残っていくということは事実だろう。

配分の比率を均等にするとか、組み込み資産の数を無限にするとかということは実現できるものではないのだが、 ポートフォリオ構築の際の傾向として理解すれば、 組み込み資産の数を増やせば、ポートフォリオのリスクは個々の資産のリスクに影響される割合が減っていき、 その相関関係に影響を受ける割合が大きくなる。これをポートフォリオによるリスク分散という。

しかも、共分散と分散の決定的な相違は、分散は絶対に正値であるが、共分散はマイナスを許すことである。 つまり、絶対に増えるだけの分散のリスクが減っていって、増えたり減ったりする共分散でリスクが決まるのである。 ここにポートフォリオ組成の醍醐味があるといってもよいのだろう。

 



























































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