効用関数(その2 形状)

収益率-効用平面の形状

AI(人工知能)の研究が進めば、明かりが射すのかもしれないが、 現状では人間の収益率$r$に関する選好$U$を数式にすることはできない。 しかしそれでは議論が進まないので、統計的な推定によってあくまでも仮定として用いられる効用関数には、 以下の例が挙げられる。 \begin{eqnarray*} U& =& \log (r) \\ U& =& -\exp(-Ar), \quad(A\gt 0)\\ U& =& Ar-r^2, \quad (A\gt 0,r\lt \frac{A}{2}) \end{eqnarray*} ここで、$A$は投資家のリスク回避度を表している。少し切片調整して、$A=3$とすると、 具体的に3つの関数のグラフを実際の数値で描画すると次のようになる。

shape of utility functions
$U=3r-r^2$については$r$の領域を限定$(r\lt \frac{A}{2}=1.5)$することで微分条件を満足させることとなる。

そしてわれわれは議論を進めるうえで、三つ目のものを変形した次のような効用関数を用いることとする。 \[ U = r_p-0.5A\sigma_p^2,\quad (A\gt 0) \] この関数は冒頭の微分条件が明示的でないように見えるが、直感的な説明を加えると、 収益率の上昇と共に効用は直線で上昇するが、次第にリスクのペナルティが2乗で逆に利いてくるために効用の伸びは小さくなる。

冒頭の関数形式に則るなら、リスクが収益率の関数となる$\sigma_p = \sigma_p(r_p)$という表記が好ましいかもしれない。 $0.5$は微分したときに係数を消すための数値なので、特別な意味はない。

例えば先の項で二つのリスク資産の相関係数が1であるならば、 \[ \sigma_p=\frac{\sigma_1-\sigma_2}{r_1-r_2}r_p+\frac{r_1\sigma_2-r_2\sigma_1}{r_1-r_2} \] となることが分かっている。つまり収益率とリスクが線形関係になることがある。この式にならって、 \[ \sigma_p=r_p-1 \] という関数を仮定すれば、効用関数は、 \[ U=r_p-0.5\times 3\times (r_p-1)^2 \] となる。現実の数値で描画すると、

shape of utility functions

となって、あたりまえだが3つ目のものと非常に似ている。$A$はリスク回避度を示すのだが、 効用の伸びを抑える強さと見ると解りやすいだろう。さきほど$A=3$としたので、では$A=1$と$A=5$を追加してみると、 同じグラフの形状はつぎのように変化する。

shape of utility functions
リスク回避度$A$が大きくなると、収益率に対する効用の感度が強くなる。

 

リスク-リターン平面の形状

収益率-効用平面での効用関数の形状を調べてきた。しかし、 ポートフォリオの分析はほとんどがリスク・リターン平面で行われることになる。効用関数を、 \[ U = r_p-0.5A\sigma_p^2 \] としてリスク-リターン平面で考えるとどのようになるのか補足しておこう。 リスク-リターン平面では、x軸をリスク、y軸をリターンで考える。いま効用の値を一定として$U$(定数)とすれば移項して、 \[ r_p=0.5A\sigma_p^2 + U \] とすれば、よく見馴れた$y=ax^2+b$という2次関数となっている。 やはり具体的な数値を入れてグラフを描画してみよう。$A=3$はそのままに、$U=1\rightarrow 3\rightarrow 5$と変化させると、 そのグラフは、

shape of utility functions

となる。効用関数は右下を凸としたグラフを描く。一つのグラフ(線)は効用を固定したものだから、 右肩上がりになっていて、ある効用を維持しようとすると、リスクが上がれば収益率が上がることになる。

3本のグラフ(線)についてみると、効用が上昇するにつれて、グラフは上方にシフトしていく。 すなわちあるリスク・リターンの点をとったとき、その点から左上に向かって効用が増加し、 右下に向かって効用は下がっていくことを仮定している。これも高いリターンには高いリスクが伴い、 リスクが上がるならばリターンが上がらないと間尺に合わないという、われわれの感覚にもフィットしているものであろう。

そして効用は逓減するから、左上に向かって頂上を目指す等高線を描くことになる効用線は、次第に幅広くなるのである。

リスク・リターン平面において効用関数を考えるとき、

A>0 リスク回避者

A=0 リスク中立(無視)者

A<0 リスク選好者

という分類を与えることもあるが、効用関数の式を特定しないと、誤りやすいので注意が必要となる。 リスク中立とはリスクが個人の効用に影響を与えないことをいうので、 もし効用関数に回避度$A$と結びつきのないリスクが含まれていると思い通りの結果を生まないことになる。

 









効用関数はあくまでも理論構築上の便宜である。











































ポートフォリオ構築の配分比率は適当に満足されるものとする。












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