インデックスモデル

CAPMが重用される大きな理由のひとつを紹介しておこう。 \[ r_i=(r_m-r_f)\beta+r_f,\qquad \beta=\frac{\sigma_{im}}{\sigma_m^2} \] それはインデックスモデルである。

インデックスモデルは資産の収益率と何らかの経済的な(マクロ)指標との関連を探るために利用される。 選択されるさまざまな指標と収益率は完全な対応はしていないし、企業によってもその感応度は異なるであろう。

一つではなく多数の指標を利用することも想定できるが、 ここではもっともプリミティブでCAPMとの関係深い指標として、資産の超過収益率$Y_i=r_i-r_f$と 市場の超過収益率$X=r_m-r_f$の相関を考えよう。

インデックスモデルのオリジナルの式はつぎのように表される。 \[ Y_i=\alpha+\beta X+e_i \] ここで、$\alpha,\beta$は定数、$e_i$は平均0となる誤差項である。

われわれが知りたいのは、$\alpha,\beta$である。なぜなら誤差項を無視すると、一次関数の係数がわかれば、 資産と市場の超過収益率のいずれか一方によって、他方が推定できるからである。その推定値を信じれば、 裁定取引の状況を発見できるのである。

この式の$X_i$と$Y$をもともとの変数に置き換える。 \[ r_i-r_f=\alpha + \beta(r_m-r_f) +e_i \] すなわち資産の超過収益率と市場の超過収益率との関係を探るモデルとなる。

ふつう行われる最小二乗法による回帰を適応すると、$\alpha$と$\beta$は、 \begin{eqnarray*} \beta&=& \frac{cov(r_i-r_f,r_m-r_f)}{V(r_m-r_f)}\\ \alpha&=&E(r_i-r_f)-\beta E(r_m-r_f) \end{eqnarray*} と推定される。この$\beta$については、安全資産利子率$r_f$を一定として、 \[ \beta=\frac{cov(r_i-r_f,r_m-r_f)}{V(r_b-r_f}=\frac{cov(r_i,r_m)}{V(r_m)}=\frac{\sigma_{im}}{\sigma_m^2} \] となり、CAPMのベータβと一致する。

個別資産と市場ポートフォリオの超過収益率を変数として選択したインデックスモデルはCAPM式そのものを推定することになる。 言い換えればこのインデックスモデルはCAPMの実証的な裏づけを行うものになる。

そして最小二乗法によるパラメータ推定は、CAPMのベータβそのものを、 追加的な計算を必要とすることなく推定していることになる。

  

リスク分解

超過収益率インデックスモデル(とCAPM)と統計的な指標との直截な関係はリスク分解にも現われる。 インデックスモデルにおける資産のリスクは、両辺の分散をとると、 \[ V(r_i-r_f)=V(\alpha + \beta(r_m-r_f) +e_i) \] であるから、定数をすべて消して、$r_m$と$e_i$が独立とみるなら、 \[ V(r_i)=\sigma_i^2=\beta^2\sigma_m^2 +\sigma_e^2   \] となり、個別資産のリスクは、システマティックリスク(最右辺の第1項)と 資産固有のユニークリスク(最右辺の第2項)に分解されることがわかる。

一方で統計分析上で利用される決定係数$R^2$は相関係数$\rho$の2乗であるから、 \[ R^2=\frac{cov(r_i-r_f,r_m-r_f)^2}{V(r_i-r_f)V(r_m-r_f)}=\frac{\sigma_{im}^2}{\sigma_i^2\sigma_m^2}=\frac{\sigma_{im}^2}{\sigma_m^4}\frac{\sigma_m^2}{\sigma_i^2}=\beta^2\frac{\sigma_m^2}{\sigma_i^2} \] となるので、式の両辺を$\sigma_i^2$で払って、上の$V(r_i)$とこの決定係数を利用すると、 \[ \frac{\sigma_e^2}{\sigma_i^2}=1-R^2 \] となる。個別資産全体のリスクに占める固有リスクの割合が、 $1-R^2$で直接求められることになる。

たとえばなんらかのポートフォリオをひとつの固有資産と考えよう。 ポートフォリオは意図して構築すれば、固有リスクを限りなく小さくできるはずである。 固有リスクを減らすポートフォリオの性能はこの1-決定係数で直ちに試算できることがわかる。 極端に考えれば、市場全体を買えば固有リスクはゼロとなる。

  

リスク分散

インデックスモデルに超過収益率を適応した個別資産$i$と任意のポートフォリオ$p$は、次のように表される。 \begin{eqnarray*} Y_i&=&\alpha_i+\beta_iX+e_i \\ Y_p&=&\alpha_p+\beta_pX+ep \end{eqnarray*} 再び先の「リスク分散」の項でやったと同様に、n個の個別資産の等金額のポートフォリオを想定すると、$Y_p=\sum\frac{X_j}{n}$であるから、 \[ Y_p=\sum\frac{\alpha_j}{n} + \sum\frac{\beta_jX_j}{n} +\sum\frac{e_j}{n} \] となるので、このポートフォリオのリスクは、両辺の分散を取って、$\sum(\beta_j/n)=\beta_p$、$\sigma_{ep}=\sum(e_j/n)$ とおくと、 \[ V(Y_p) = \sigma_p^2 = \beta_p^2\sigma_m^2 + \sigma_{ep}^2 \] である。しかし、この右辺の第二項は、 \[ \sigma_{ep}^2 = (1/n)^2\sum\sigma_{e_j}^2 \] であるから、$\sigma_{e_j}$が大体同じような値と見ると、$\sigma_{e_j}^2/n$となって、$n\rightarrow\infty$ とすれば、 ゼロに近づいていく。

すなわちインデックスモデルにおいて組込む資産の数を増やせば、そのポートフォリオのリスクは、 \[ \sigma_p^2 → \beta_p^2\sigma_m^2\qquad (n\rightarrow\infty) \] となって、システマティックリスクに収束する。

ポートフォリオの資産の数を増やしていくと、個別資産のリスクが全体に占める割合は減っていき、市場との相関によるリスクだけが、 残っていくというポートフォリオのリスク分散は、インデックスモデルにおいても確認できることとなる。

 


















線形回帰を行ったことのある方は、馴染みのある式だろう。
時系列$t$付きで表記すれば、
$Y_i^{t}=\alpha+\beta X^t+e_i^t$
となる。











共分散の式の変換を思い出されたい。
















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