リスク中立確率とCAPM

リスク中立確率はオプションの現在価格を求める際にもっとも基本的な役割を果たす概念であるが、 一言聞いてなるほど得心することはなかなか難しい。

ここではオプション価格の議論に先んじてCAPMにおけるリスク中立確率の意味合いについて触れてみたいと思う。 CAPMならばあまり難しい数式の解説をしないで済むために、イメージを理解することが容易だろうと思うからである。

 

リスク中立確率

リスク中立確率($q$メジャーとよぶことが多い)は簡単に言えば、将来の起きうる不確定な価格の期待値を求めたとき、 その期待値を現在の安全資産利子率で割り引いたときに、まさに現在の価格になるように定める人為的な確率である。 言葉よりも簡単な例でみるほうが早いだろう。

いま、0時点で100円の資産が、次の将来の1時点で、125円になるか、85円のいずれかになると予想したとする。 たった2つの場合だけれど、不確実な変動である。

それぞれの上下動の確率は、強気で125円となる場合が70%、85円となる場合が30%と予想している。 すると1時点の価格の期待値は、
125*0.7+85*0.3=87.5+25.5=113 
である。

ここで、1期当たりの現在の安全資産利子率が0.03(3%)であったとしよう。すると、当初の70%(30%)の確率に対して、 リスク中立確率qは、
(125*q+85*(1-q))/1.03=100
あるいは、
(125*q+85*(1-q))/100=1.03
を解いて、
q=0.45 (1-q=0.55)
すなわち、45%(55%)と求められる。

これは、現在100円の資産が将来125円に上昇したり、85円に下落したりする確率値をどのように当事者が予測したとしても、 全く切り離れたところで決定される確率であり、(リスク)中立な世界と呼ぶのはそういう意味からである。

たとえ当事者が125円になる見込みが1%と思っても、99%だと確信しても、どういう重みつけで将来価格を予想しようとも、 リスク中立な確率q=45%は変わらない。

予測する価格そのものが125円から120円になったり、85円が80円になっては困るのだが、そのような難点は、 ある程度の幅をとって、たくさんの価格値を事前に、予想しておけば乗り越えられるだろう。

ちなみに当事者の考える勝手な当初の予想を自然確率($p$メジャー)とよぶことがある。

 

CAPMへの適応

リスク中立確率をつかって価格の関係を表示すると、現在の価格$P_t$、安全資産利子率$r_f$、将来の価格$P_{t+1}$とし、 リスク中立な確率$q$を使った期待値操作を$E_q$とすれば、 \[ \frac{E_q(P_{t+1})}{1+r_f}=P_t \] となり、これは、 \[ \frac{E_q(P_{t+1})}{P_t}=1+r_f \] ともできる。

一方でCAPMは、 \[ r_i=(r_m-r_f)\beta+r_f \] であったので、資産収益率$r_i$を定義どおり、主観的(自然確率)な期待値に基づく期待価格$E(P_{t+1})$に置き換えて、 \[ r_i=\frac{E(P_{t+1})-P_t}{P_t} \] 考える。CAPMのオリジナルは将来価格$P_{t+1}$を求めることにあるが、ベータをそのまま$\beta$、市場収益率を$r_m=E(m)$とすれば、 \[ \frac{E(P_{t+1})}{P_t}=(1+r_f)+(E(m)-r_f)\beta \] と表すことができる。

リスク中立確率と自然確率の二つの式を比較すると、 \[ E(P_{t+1})=E_q(P_{t+1})+P_t(E(m)-r_f)\beta \] を得る。従って、CAPMを利用すると、均衡での将来の期待価格$E(P_{t+1})$は、リスク中立確率を利用した将来価格$E_q(P_{t+1})$に、 超過収益によってもたらされる価格をベータで調整した値を加えたものとなるのである。

これは「リスクの価格」の項で、現在価格に安全資産利子率を掛けたものは、 将来価格からリスクプレミアムを差し引いたものとなることの別の表現であり、 \[ E(P_{t+1})-(1+r_f)P_t=P_t(E(m)-r_f)\beta \] がリスクプレミアムとなっている。

 

















純粋数学的には、確率分布は測度の定義に従うだけの、すべて人工のものといえる。










ふつう確率値は事前にあるものだが、リスク中立確率は予想価格から逆算する。




















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