確率変数

確率論に取り組もうとすると確率値やその分布を得るために積分が必要になる。確率変数$X$、その実現値$x$、確率密度関数$f(x)$として、 たとえば実数に値をとる確率変数$X$があらかじめ定められた値$x$以下となる確率値は、 \[ P(X\le x)=\int_{-\infty}^xf(y)dy \] という式になることはどんなテキストでも最初の方にある。 そしてたいていはご存知であろうけれども、確率密度関数に、指数分布、正規分布、t分布などをモデルとして当てはめることで、 さまざまな分析をすすめることができる。

しかしなぜこのような話の組み立てになっているのだろうか。もともと積分や数学に合わせて舞台に登場する項目を割り当てたといえばそれまでだが、 まずは確率論がこのような導入になるに当たってのひとつの解釈の紹介から始めていきたいと思う。

なぜなら、確率論は測度や積分に基礎があるので、ぽつぽつとそれらの紹介を行おうと目論むのだが、 動機付けとして確率論における積分の意味が簡明に理解されていないと、せっかくの数学が用意する柔軟性や広がりが仇になり、 かえっていらぬ複雑さや混乱を生むもとになっているのではないかと思うのである。

また、測度論は難解という拒否感や、無理して取組む価値もないという偏見につながっているのではないかとも思うのである。

測度から積分、確率論に到る道筋をたゆたうことなく簡明に述べ切ることは、とても私の手に負えるものではないが、 ひっかかるものを多少なりとも解消すべくいくつかの判然としない事柄について自分なりに作成したメモを紹介していきたいと思う。

本項以降は確率論とそのための測度・積分入門前後のコラムのようなものであって、定理の証明が行われることはないだろうし、 直観とイメージだけの説明になるかもしれないが、そんな中でなるほどそういうことだったのかと思われることが見つかることを期待したい。

したがってこれといった筋書きのないトピック中心の説明になるので、脈絡が読みきれず、とらえどころがなくなる心配があろうが、 しっかりとした勉強がされたい場合は、ぜひとも直ちに本格的なテキストにチャレンジしていただきたい。

 

確率変数

さてまず最初は確率変数$X$から始めよう。確率変数は可測関数であるというと、この段階で抵抗感一杯となるかもしれないが、 言葉だけで判断するのは待って、すこし我慢して進んでいただきたい。「可測」は脇においておいて、「関数」について述べておこう。

われわれはありとあらゆる確率的な事象を扱うことを目指すが、当然ターゲットとする事象はいつも数値化されているものではない。 たとえば例としてあげると辟易するかもしれないが、コイン投げという事象は常識的には、「表($H$)」か「裏($T$)」が出ると 見るのがふつうだろう。

しかしそれでは数学操作はできないので、コイン投げの結果という確率的事象$X$のありうるケース「$H$」と「$T$」に、 特定の数値を割り当てて考えることとする。 \[X=\left\{ \begin{array}{ll} 1 & (H) \\ 0 & (T) \end{array} \right. \] とすれば、表に$1$、裏に$0$を割り当てていることとなる。

1回コインを投げた結果という事象を$w$と表すことによって、いずれかの結果を意味することとし、 \[w\in \left\{ H,T \right\} \] とすれば、 \[ X(w)=x\qquad (x=0,1) \] ということに他ならない。つまり、 \[ X(w=H)=1,\qquad X(w=T)=0 \] となり、たった2値しかとらないが、確率変数$X$は関数であるという申し立てには疑問は起きないだろう。

関数というと初等で叩き込まれた$f(x)=y$がすぐに思い浮かべられるだろうが、$w$に名前を変えた独立変数に割り当てられるのが数値ではなく、 $H$と$T$という事象を表す記号ということが大きな相違である。

もちろん関数となる確率変数$X$の具体的な形式や中味をわれわれは知ることもない。なぜ$X$に$H$を与えると$1$が返ってくるのか、 どうして$T$を与えると$0$がかえってくるのかを知らないし、実はあまり興味もない。そういう関係だけを知っているのである。

そういう意味で「関数」というより「写像」という言葉のほうがしっくりする方もおられるかもしれないが、 当面の目標が積分であるので、「関数」という言葉を使っていこう。

大事なことは、関数としての確率変数の中味にこだわらないことによって、われわれはさまざまな事象を数値化して議論ができる自由度を 手に入れることになるのである。たとえば、事象$w$の数値を変えて、 \[X(w)=\left\{ \begin{array}{ll} 1 & (w=H) \\ -1 & (w=T) \end{array} \right. \] とすることもできる。このとき上の$X$から何が変化して裏の$0$が$-1$に変わったのかを議論することはない。 また、コイン投げではなく、矢が的に当たれば1万円もらい、だめなら5百円払うというような事象の議論を行うことも可能となる。

非常に有名な古典的確率問題として「ビュフォンの針(Buffon's needle problem)」というものがある。

「平らな面に定められた間隔で多数の平行線を引き、そこにある長さの針を投げたとき、どれかの線と針が交差する確率はどのようになるか?」

という問題である。これは、落ちた針の中心から近いほうの平行線までの距離と、針とその線が作る角度を、 二つの独立な確率変数として一応の解を得ることができるのだが、針を投げるというイベントに対して、 2種類の確率変数が取る値のプロセスの中味を考えることはかなり難しい問題になろう。それゆえに確率を考えるということでもあるのだが、 しかし、事象の結果として、なんらかの値が得られることに疑問の余地はないだろう。

確率変数は様々な事象の一つ一つに対して、実数に値をとる関数と考えることが自然なのである。

 































適当な時期に参考文献を挙げたいと思う。


























































これは試行を繰り返すと、ランダムウォークとなる。








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