σ代数の包含

選択公理を認める立場に立って一番おおきなσ代数となる実数$\mathbb{R}$のべき集合をそのまま使うことをあきらめ、 実数のべき集合をルベーグ可測集合$\mathcal{F}(R)$に制限すれば、$\mathcal{F}$はσ代数の性質を維持しながら、 その上に完全加法性を持つルベーグ測度$m$が存在することを前項までで説明した。

この三つを併せれば実数の測度空間$(\mathbb{R},\mathcal{F}(R),m)$を構成できることになる。

組み立ては先に$\mathbb{R}$に測度を導入しておいて、その測度を使ってべき集合を制限するという方法をとったのだけれど、 抽象的に定義から先行させるならば、有限加法的測度空間の項で話をしたときのように立ち上げることもできる。

ある(全体)集合$\Omega$の部分集合族$\mathcal{F}$は、

(1)$\Omega\in\mathcal{F}$
(2)$a\in\mathcal{F}$ならば、$a^c\in\mathcal{F}$
(3)$a_1,a_2,\cdots\in\mathcal{F}$ならば、$\cup a_i\in\mathcal{F}$

を満たすときσ代数、あるいはσ集合族という。そしてこの$\mathcal{F}$のうえに関数$m$があって、

(1)$a\in\mathcal{F}$について、$m(a)\geq 0$
(2)$m(\phi)=0$
(3)$a,b\in\mathcal{F}$が$a\subset b$のとき、$m(a)\leq m(b)$
(4)集合の列$a_1,a_2,\cdots\in\mathcal{F}$について、$a_i\cap a_j=\phi(i\ne j)$ならば、$m(\cup a_i)= \sum m( a_i)$

となるとき、この関数$m$をルベーグ測度という。そしてルベーグ測度の存在するσ代数をルベーグ可測集合という。 できあがった三つの組$(\Omega,\mathcal{F}(\Omega),m)$を測度空間と呼ぶ。

一般的な普遍の議論をするならばこの定義からスタートすればよいのであって、ルベーグ測度や可測集合の定義と、 これまで説明してきた区間から作った外測度やカラテオドリの外測度との関係を逐一詳らかにできることはいうまでもない。 もちろん区間で用意した外測度$m^*$以外の測度を用意することもできる。さらに進んでハール測度などを調べられるとよいかもしれない。

この定義から始めると、具体的な証明を積まない限り聞く方は直ちには何を云わんとするか判じ難いものだけれど、 ここまでの項を読んでいただければ、$\Omega=\mathbb{R}$としたときの、 測度や可測集合がおおよそどのようなものなのかがわかっていただけるだろう。

定義と証明と具体的な構成が行きつ戻りつして、循環しながら進展しているのである。

これまでの説明は区間という測度の自然な流れを使ったのだが、もう少し違ったアプローチについても触れておこう。 いくつかのσ代数の共通部分をとったとき、共通部分の集合はやはりσ代数となることを認めておく。

そして次のような集合を定義すると、やはりσ代数をえることができる。 \[ \mathcal{B}=\cap\left\{B:Bはすべての区間を含むσ代数 \right\} \] この$\mathcal{B}$をすべての区間によって生成されたσ代数、あるいはボレル集合族、ボレル集合体といい、 $\mathcal{B}$の要素をボレル集合という。あたまに共通部分$\cap$が付いているのは、 条件を満たす$B$の一番小さなものにしているためである。区間の外測度を$\inf$で押さえたようにみられればよいだろう。

実数$\mathbb{R}$のべき集合がそのままでは完全加法な測度が置けない集合であると認めたとき、 \[ \mathcal{L}(R)=\left\{ 完全加法性を持つ測度mが存在する\mathbb{R}のσ代数 \right\} \] を探すことを考えた。

そして先の項では$\mathcal{L}(R)$を探すために区間の外測度を使って、 カラテオドリの外測度を用意しそこに追加条件を加えることでべき集合を制限した。

でも、そのようなもって回った話しをせずに、いきなり区間を使って、 上のような$\mathcal{B}$の定義を考えることも不思議ではないだろう。 実はこのボレル集合族$\mathcal{B}$は実数$\mathbb{R}$における開集合のすべてを含むσ代数になっていることが分かっている。

開集合といえば自然と位相との関係が気になるだろうが、それは後の項に譲りたいとおもう。

するとさいしょに浮かぶ疑問はこのボレル集合族$\mathcal{B}$と先の項まで話してきたルベーグ可測集合$\mathcal{F}$とはどういう関係なのか、 同じ物なのだろうかということだろう。

ルベーグ可測集合はすべての区間を含んでいるとみてもよいだろうから、ボレル集合族はルベーグ可側であると考えることに異論はないとおもう。

さらにあたまを$\cap$で押さえているから、ボレル集合族はルベーグ可測集合の中で、 区間を含んだもっとも小さい集合になっている。したがってまずはルベーグ可測集合はボレル集合族を含んでいるとみるのが自然だろう。

そして、二つの集合族の関係は、決して等しいものではないことが分かっている。

先走ってまとめれば、実数$\mathbb{R}$を全体集合とすれば、次のようなσ代数の関係が成立している。 \[ \mathcal{B}(R)\subset \mathcal{F}(R)\subset \mathcal{P}(R) \] 重要なことはいずれも等号はつかないのである。

まず簡単にルベーグ可測集合と実数のべき集合$\mathcal{P}(R)$の違いを説明しておこう。 非常に専門的な内容なので、とばしていただいてもまったく構わない。

$[0,1]$にある実数を二つ$x,y$ととって、両者の差$x-y$が有理数であるという基準で$[0,1]$の実数のすべてをグループ$A_i$に分類する。

このグループ$A_i$は無限個できて、各グループ内の要素の差は有理数であるし、どの他のグループとの要素の差は有理数ではない。 そしてどんな$[0,1]$の実数もどれかのグループに入っている。

無限個ある各グループ$A_i$から要素を1つづつ選び集合$A$をつくる。この$A$が非可測集合となるが、それは次のように考えるからである。

$[-1,1]$のすべての有理数を数列$q_i$として列挙し、新たに集合列$B_i=A+q_i,(i=1,2,\cdots)$ を作る。 どの$B_i$も$[-1,2]$に含まれる。$A$が可測ならば、$B_i$も可測であり、その測度は$m(B_i)=m(A)$で等しい。

さらにこの$B_i$は互いに素で、$\cup_{i=1}^{\infty } B_i$は$[0,1]$を含む。

すると、$[0,1]\subset \cup B_i\subset [-1,2]$であり、 \[ 1=m([0,1])\leq \sum m(B_n)=m(A)+m(A)+\cdots \leq m([-1,2])=3 \] となる。しかし、中ほどの無限和は0か無限大と考えるのがふつうだろう。つまり$A$が可測であることに無理がある。

実数のべき集合には当然$A$が含まれるので、この結果からルベーグ可測集合とべき集合は異なることが導かれる。 また測度が常に完全加法性を満たしきれないことがおおよそ分かる。

ちなみに、無限個のすべての$A_i$から各1つの要素を選んでいるから、この構成は選択公理を認めている。かつて述べたように、 選択公理は、「(無限個の)各グループから要素を1つづつ選び集合$A$をつくる。」ことが可能であることを認めるものであるが、 このような使い方をする。

ボレル集合ではないルベーグ可測集合は、この非可測集合を利用することでやはり反例として生むことができるのだが、 ではボレル集合族とルベーグ可測集合の本質的な違いは何であろうか。

 
























































































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