単関数

確率変数は常に確率が測れる変数であるが、その実体は可測関数であって、可測関数はσ代数となる定義域の集合に対して逆像がとれて、 その逆像を元に確率という測度が計算できるからである。

測度は測度空間の三つ組みのところで、なんらかの集合が与えられたときその部分集合の大きさを測るものとして考え、 その満たすべき条件を紹介したが、さらに具体的な形でかつ異なる視点で発展させてみたいと思う。

もしいま、なんらかの集合というものを、平面の2次元にあるグラフと$x$軸が挟む図形としよう。 そして、$x$軸の適当な幅を指定したときのグラフと$x$軸が形作る図形は、もとの左右に広がる図形の部分集合となり、 この面積を測度として測りたいとする。

もって回った言い方をしているが、要するにこれはある関数の積分を求めたいということである。 つまり、測度はその概念の中に積分を含んでいることが分かる。

再び測度$m$の定義を上げておこう。σ代数$\mathcal{F}$については、実数の議論なのでボレル集合を考えておかれたい。

(1)$a\in\mathcal{F}$について、常に $m(a)\ge 0$
(2)$m(\phi)=0$
(3)$a_1,a_2,\cdots \in \mathcal{F}$ かつ$a_i\cap a_j= \phi(i\ne j)$ ならば、$m(\cup_{i=1}^{\infty} a_i)=\sum_{i=1}^{\infty} m(a_i)$ (完全加法性)

この定義と初等で聞かれた積分の話との距離感が難しさや抵抗感を招いているような気がするので、うるさいけど改めて再掲したしだいである。

ひとつはっきりしていることは、変数$x$が動く実直線を1次元として、独立変数と関数を$(x,f(x))$という組で見れば、 これは平面つまり2次元となり、とりあえずわれわれは2次元の積分を考えようとしている。 そして2次元の問題が片つけば自然と高次元の積分への橋渡しができるだろうと目論むだろう。しかし測度はもともと、次元がどのように高くなろうとも、 σ代数のうえの関数であって、定義を満足するような関数$m$であればよいということである。

しかしこの定義のままではふつうの関数が与えられたとき測度=積分とはどのようなイメージをもったらよいのか、 実務的にはあまりに漠とした感が拭えない。

抽象的な空間でなく、実数の空間$\mathbb{R}$で限定して考えることとしてよいので何かの手がかりがほしい。 それに測度も関数であるから、積分=関数の測度となると、関数と関数の関係ということになって、なんだかますます分からないではないか。

ならば具体的にしてみよう。例えば、$x\in\mathcal{B}$としてボレル集合体の上の変数を考えて、 \[ y=\exp(x) \] というよくある指数関数が与えられたとき、$x-y$軸によるの2次元平面上の$(x,\exp(x))$という組にはいろんな測度が導入できるだろう。

では典型的にはどのようにしたらよいのであろうかということである。そのひとつの手がかりは実直線上の測度を単なる区間からスタートさせたように、 \[ M((x,\exp(x)))=\int_a^b \exp(x)dx \] として関数が形成する面積、つまり積分の値とすることだろう。上で言ったことはこういう意味であった。 直線の典型的な測度を長さつまり区間として考えたように、平面の典型的な測度を面積つまり積分で考えることは全く自然なことだろう。

ただこの積分をわれわれが学んできたリーマン積分で済ましてしまうのは、当初の目論見からすれば不十分であるので、 なんらかの手を加えねばならない。なぜなら、普通の積分は微分可能とまでは言わないが、滑らかで連続しているものをイメージするだろう。 しかし、部分集合の作り方ははるかにいろんな作り方が考えられて、そんなきれいな関数では到底表されないものだってある。

よくテキストにある例だがわれわれは、 \[f(x)=\left\{ \begin{array}{ll} 1 & (x:有理数) \\ 0 & (x:無理数) \end{array} \right. \] のような関数の測度=積分も形式的に求めたい。

このようなぶつぶつの関数ではリーマン和は求めることはできないのである。この当りから測度は積分を支える重要な土台となっていくのであって、 相互に緻密な研究が発展していくのである。

つまり積分を測度のような高みから見ると、従来の(リーマン)積分に手を加えなければいけないことはわかるのだが、 一方でだからといって、これまでの形式や計算値とかけ離れるのも不自然であろう。

あたらしい積分は従来の積分と矛盾せず、包含したものであってほしいのである。段階をおって進めていこう。

いま実数の一部を全体集合$\Omega\subset \mathbb{R}$とし、 \[ \Omega=a_1\cup a_2\cup\cdots \cup a_n \quad (a_i\cap a_j=\phi (i\ne j) ) \] となっていて部分集合$a_i$で交わりなく分割されているとする。ここで、 \[1_{a_i}(x)=\left\{ \begin{array}{ll} 1 & (x\in a_i) \\ 0 & (x\notin a_i) \end{array} \right. \] という関数を定義する。この関数は特性関数とか定義関数と呼ばれるが、特性関数は確率論では別の関数の名称として定着しているので、 定義関数と呼ぶことにする。

そして、すべての部分集合$a_i$ひとつひとつに任意の定数$d_i$が定まっていて、 ある関数s(x)がこの定義関数を使って、 \[ s(x)=\sum d_i 1_{a_i}(x) \] と表されるとき、この$s(x)$を単関数という。

たとえばもし$x\in[0,1]$で$2$をとり、これ以外の領域では$0$となる関数があるならば、 \begin{eqnarray*} s(x)=0 &: &x\in (-\infty,0) \\ s(x)=2 &: &x\in [0,1] \\ s(x)=0 &: &x\in (1,\infty) \end{eqnarray*} であるから、単関数としては簡単に、 \[ s(x)=2・ 1_{[0,1]}(x) \] となる。面倒なことを云っているように聞こえるかもしれないが、定義関数を使って表すことができる。

この関数の積分は、従来どおりのやり方では、 \[ \int_{\mathbb{R}}s(x)dx=\int_0^1 2dx=2 \] である。

関数の測度を前面にだして考えるなら、 まず定義関数の測度を、迷うことない区間の長さにおいて、 \[ m(1_{[0,1]}(x))=1-0=1 \] として、 \[ M(s(x))=2m(1_{[0,1]}(x))=2m([0,1])=2 \] とすることが自然だろう。

そしてこの考えを敷衍すると単関数について一般化して、 \[ M(s(x))=m\left(\sum_{i=1}^n d_i1_{a_i}(x)\right)=\sum_{i=1}^n d_i m(a_i) \] としたらどうかと思うだろう。ここで$a_i$は区間であり、測度は区間の長さで取るということである。

リーマン和と比較して考えると、微小区間を区間の測度に置き換えるのである。 いきなり式の第2項と第3項に加法性の条件が現れてきていることに何かしらの符牒を感じるだろうか。

そして、測度という関数の導入によって、非常に多様な関数の測度=積分に発展できることが感じ取れるであろうか。

 
























































































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