収束定理

前項で測度の概念を用いた関数の積分に進んだ。しかしわれわれはx軸を細かく区分して求積するリーマン積分を繰返したいのではない。 測度を明示的に中心に据えることは当然の目標として、もとはリーマン積分では求められないディリクレ関数と呼ばれる、 $x\in[0,1]$において、

$f(x)=1$ ($x$:有理数)
$f(x)=0$ ($x$:無理数)

のような関数の測度=積分も形式的に求めたいのである。

そこで新たな積分の定義を得るためにもっとも単純な単関数を利用して、新たなルベーグ積分を定義した。それは、

\[ M(f(x))=\int f(x)m(dx)=\lim\sum d_i^{(n)} m(a_i^{(n)}) \] というものである。

最初に聞くとリーマン積分と何が違うのかピンと来ないかも知れない。 しかしこの驚嘆すべきアイデアの骨格にある従来の(リーマン)積分との決定的な相違は、 細分する区間を$y$軸にとって、$x$軸にある独立変数の定義域を関数fの逆像を使って測度をはかったところにあり、 その定義域全体はσ代数となっていることであった。

これまでの測度に関するさまざまな事柄との見事な調和がとれており、 集合や測度を使って自由度の高い議論ができる土台となることは察知できるだろう。 とはいえあまり抽象的な議論を行いたいわけではないので、測度$m$はとりあえず区間で取っていると考えておけばよい。

上のディリクレ関数を新たな積分の定義を利用して求めてみよう。

\begin{eqnarray*} M(f(x))&=&1\cdot m\left(\left\{x| xは有理数 \right\} \right)+0\cdot m\left(\left\{x| xは無理数 \right\} \right) \\ &=&1\cdot m\left(\left\{x| xは有理数 \right\} \right) \\ &=&0 \end{eqnarray*} $\left\{x|xは有理数 \right\}$の区間の測度は0になることはずいぶん以前の項になるが触れたとおりである。

この関数は従来のリーマン積分のもととなる区分求積法では上積分の値が1となり、 下積分の値が0となって一致しないため値を求めることができなかったことを思い出そう。

とりあえず$x$の在りようはボレル集合の範疇で考えているのだけれど、$f$が可測な関数であれば測度を適応できるから、 この計算は十分一般的なのである。

そして新たな積分の定義の導入の中で注目したくなったのは、積分と極限操作の順序交換であった。 ご存知のとおりわれわれが慣れ親しんだリーマン積分では、 簡単に言えば、有界で一様収束しないと積分と極限操作は簡単に入れ替えることができない。 これもまた区分求積に根ざす桎梏といえなくもない。

操作の入替えが簡単でないという制約は一般的、抽象的な議論を進めるうえではなかなかやっかいな不便をもたらして、 実際の計算でも局所的な一様連続とか広義積分などという迂回技術を用いてきた。 技術的な事柄と思えるだろうがいささかでも緩和しておきたいというのが常なのである。

まず概収束を準備しておこう。概収束とは、変数$x$の定義域$A$とする関数列$f_n$と関数$f$があって、 定義域から零集合$N$を除いた部分$A/N$で、 \[ \lim_{n\rightarrow\infty} f_n(x)=f(x)\quad (x\in (A/N)) \] が成り立つとき、 \[ \lim_{n\rightarrow\infty} f_n(x)=f(x) \quad a.e. \] と書いて、$f_n$は$f$に概収束するという。後尾についている$a.e.$は、almost-everywhereのことで、 確率論のalmost-surelyと同じような意味である。

つまり定義域の零集合を除いた部分を「ほとんどいたるところ」と形容して、 「ほとんどいたるところ」ならば(点)収束しているから概収束なのである。

続いて二つの定理を用意する。まずもっとも条件の緩いファトゥーの補題(不等式)である。 非負値の可測関数列$f_1, \cdots , f_n, \cdots \geq 0$において、 \[ \int_{x\in (A/N)} \lim_{n\rightarrow\infty} \inf f_n(x) m(dx) \leq \lim_{n\rightarrow\infty} \inf \int_{x\in (A/N)} f_n(x) m(dx) \] が成り立つ。$\infty\leq \infty$を許すことに注意しよう。 条件を付けないと操作順序の交換はここまでが精一杯となる。

次に関数列に単調増加の条件を追加して単調収束定理を用意する。 すなわち非負値の単調増加な可測関数列があって、$0\leq f_1\leq \cdots\leq f_n\leq \cdots$ ならば、 \[ \lim_{n\rightarrow\infty} \int_{x\in (A/N)} f_n(x)m(dx)=\int_{x\in (A/N)} \lim_{n\rightarrow\infty} f_n(x) m(dx) \] が成り立つ。これも$\infty=\infty$を許している。しかし単調増加の条件が追加されて、ほぼ目標に近づいた。

ファトゥーの補題と単調収束定理は(ルベーグ)積分の定義をきちんと行えば、 どちらも自力で証明ができるようだが、一方を証明してその結果を使って他方を証明するという段取りが容易なようである。 そしていずれかの結論をもとに積分値が有限となるルベーグ収束定理を証明する。

関数列$f_n$が$f$に概収束し、任意の可積分な関数$F$があって$|f_n|\leq F$がほとんどいたるところで成立していれば、 \[ \lim_{n\rightarrow\infty} \int_{x\in (A/N)} f_n(x) m(dx)=\int_{x\in (A/N)} f(x) m(dx) \] となる。可積分とは積分値が有限な値をとることと理解されたい。

したがって可積分な関数とは有界な定数でもよい。一様収束の条件は無くなり、 これで積分と極限計算の順序交換が可能な条件がほぼ整理された。

説明のあまりの雑駁さにこの先続けて読む気が無くなることを恐れるし、お読みになられている方は、 いたるところ疑問符を付けられるかもしれない。もっとも基礎にある前項の単関数の収束の定理ひとつとっても、 $f(x)\lt 0$となるような関数はどうするのだろうとか、適当な単関数の増加列とはおそらくひとつではないだろうとか、 いろいろと用意することができるならば、その収束は同じような結果をもたらし、ひとつの積分値になるのだろうかとか思われるだろう。

そして本項のファトウーの補題、単調収束定理とルベーグ収束定理に到ると、 定理を並べただけなのでもはや疑問符以前の状況となろう。まことにもっともなご指摘であるが、 残念ながら本項でそのようなきちんとした事柄には立ち入れない。 おおよそこのような枠組みがあることを想い留めたならば、ぜひ疑問を解消すべく本格的なテキストに挑み欲求不満を解消していただきたい。

 
























































































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