誘導測度の空間

測度論の基礎で可測関数を紹介した。可測関数とは確率論では確率変数と考えればよいということであった。 これまでやってきた測度空間の組み立てを敷衍して、確率論における空間の議論を少しだけ補足をしておきたいと思う。

この項はピンとこないかもしれないし、特段大事な事柄でもないけれど、 ふと疑問に思うとなかなか解釈しきれないものでもあるので、 そのような状況になったら、いつかのタイミングでふりかえってもらえればいいと思う。

可測関数の定義を挙げておこう。$(\Omega,\mathcal{F},m)$を測度空間とし、この上の関数$f$が、 \[ f:(\Omega,\mathcal{F})→ (\mathbb{R},\mathcal{B}) \] と与えられている。ここで$(\mathbb{R},\mathcal{B})$は実数とボレル集合体の空間である。

そして、任意の$a\in \mathcal{B}$に対して、逆像$f^{-1}(a)$が、 \[ f^{-1}(a)=\left\{w\in\Omega : f(w)\in a \right\} \in \mathcal{F} \] ならばfは可測あるいは(ルベーグ)可測関数という。

つまり、σ代数に値をとる関数$f$の逆像がやはりσ代数を形成するなら可測な関数となるのである。

確率空間に可測関数つまり確率変数$X$が導入されると、 この確率変数によって定義を満足するように確率測度を定義することが可能となる。 \[ P^X(B)=P(\left\{w|X(w)\in B \right\})\quad (B\subset \mathbb{R}) \] とする。これを$X$の法則あるいは確率分布という。

同じように確率変数$X$によって、σ代数を生成することができる。 \[ \mathcal{F}^X=\left\{w|X(w)\in B,B\subset \mathbb{R} \right\}\in \mathcal{F} \] となるようなすべての集合$B$を集めてσ代数を作る。これを確率変数によって生成するσ代数といい、 $\sigma(X)$とかくことがある。この結果、新たな確率空間、 \[ (\mathbb{R},\mathcal{F}^X,P^X) \] が構成できる。空間の前提をうるさく言わない議論の場合、たいてい最初からこちらの考え方に立っている。

確率変数$X$は写像(関数)であるから、本来標本空間$\Omega$、$\sigma$代数$\mathcal{F}$、 測度を$m$の三つ組を先に与え、この確率空間の上で定義されると考えるものである。

いまこの標本空間にある確率変数$X$が実数値にとるものとする。 \[ X:w\in\Omega\rightarrow x\in \mathbb{A}\subset \mathbb{R} \] ここで、確率変数の値域となる実数全体$\mathbb{A}$と、$\sigma$代数としてこの$\mathbb{A}$から生成する $\sigma$代数(ボレル集合)$\mathcal{B}(\mathbb{A})$をとり、任意の$A\in\mathcal{B}(\mathbb{A})$について、 \[ P^X(A)=m(X^{-1}(x\in A))\quad (A\in\mathcal{B}(\mathbb{A})) \] という確率測度$P^X$を定義する。このような測度を誘導測度あるいは像測度という。

すると当初の空間から限定された$(\mathbb{A},\mathcal{B}(\mathbb{A}),P^X) $という確率空間が用意できるだろう。 これを誘導測度の空間という。

だいたいこのように誘導された確率空間で議論を済ませたほうが簡単になることは明らかだろう。 面倒なσ代数や測度空間の議論を省略して、確率論を始めることができるからである。

また初等の確率論の説明が面倒な空間の議論を省略するのは、このような組み立てが可能であることを土台としていると思う。

 
































































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