一様分布の和

これまで一様分布について初歩的なところやちょっとした応用をばらばらと触れてきた。 本項では$[0,1]$にある一様分布確率変数の和の分布について細かく求めてみよう。 繰り返すが一様分布は見かけは簡単そうだが踏み込んでいくとなかなかやっかいで奥深い分布なのである。

まずは任意の区間ではなくて、具体的な$[0,1]$にある一様分布についておさらいをしておくと、 確率変数$T$が従う一様分布の密度関数は、 \[ f(t)= \left\{ \begin{array}{ll} 1&(0\leq t\leq 1)\\ 0&(t<0,t>1) \end{array}\right. \] である。ご存じのとおり分布関数は、 \[ F(T\leq t)=\int_0^tf(z)dz=t\qquad (0\leq t\leq 1) \] となる。そして期待値と分散は、 \[ E(T)=\frac{1}{2}, \qquad V(T)=\frac{1}{12} \] となって、特性関数は、 \[ \phi(w)=\frac{e^{iw}-1}{iw} \] となる。ちなみに特性関数から期待値を求めることはいつものとおり微分してというやり方ではできない。 というのは、微分しても分母の$w$を消すことができず、$w=0$が定義できないからである。 これは結局確率変数$t=0$が境界値になっていることに影響を受けているわけであるが、 できないままでは困ってしまうし、特性関数を使わなければ求まっているので、分母の$w$を消すためにがんばってみよう。

\begin{eqnarray*} \phi(w) &=&\frac{e^{iw}-1}{iw} \\ &=&\frac{1}{iw}\left(iw+\frac{1}{2!}(iw)^2+\frac{1}{3!}(iw)^3+\cdots \right) \\ &=&1+\frac{1}{2!}iw+\frac{1}{3!}(iw)^2+\cdots \end{eqnarray*} これを項別に$w$で微分した後で、$w=0$とおけば、第2項以外はすべてゼロとなるので、 \[ \phi'(w)|_{w=0}=\frac{i}{2} \] だから、 \[ E(T)=\frac{1}{i}\phi'(w)|_{w=0}=\frac{1}{2} \] で求まった。$w\rightarrow 0$として右からの極限を求めるべく、 分子分母を微分してロピタルの定理を使うという途もあるかもしれない。 分散は$V(T)=E(T^2)-E^2(T)$を利用すればよいので、お読みになっている方にお任せしよう。

キュムラントを使っても利用しやすい式を生むことはできないようで、 \[ K(w)=\log\phi(w)=\log\left(1+\frac{1}{2!}iw+\frac{1}{3!}(iw)^2+\cdots \right) \] となるから、先にやったように力任せに、 \[ \log(1+x)=x- \frac{1}{2}x^2+\frac{1}{3}x^3+\cdots \] と係数比較すると、 \begin{eqnarray*} x &=&\frac{1}{2}iw+\frac{1}{6}(iw)^2+\cdots \\ - \frac{1}{2}x^2 &=&- \frac{1}{2}\left(\frac{1}{4}(iw)^2+\frac{1}{6}(iw)^3+\cdots \right) \\ \frac{1}{3}x^3 &=&\frac{1}{3}\left(\frac{1}{8}(iw)^3+\cdots \right) \end{eqnarray*} となるから、 \[ K(w)=\frac{1}{2}iw+\frac{1}{12}\frac{1}{2!}(iw)^2-\frac{1}{4}\frac{1}{3!}(iw)^3+\cdots \] ぐらいは分かるので、係数を見れば$k_1=E(T)=\frac{1}{2},k_2=V(T)=\frac{1}{12}$が確認できる。

さて問題は一様分布の和であるから、とりあえず$Y_2=T_1+T_2$の分布を求めてみる。 $0\leq T_2\leq 2$であるから畳込み(convolution)を形式的に行うと、 \[ f^{*2}=\int_0^2 f(t-z)f(z)dz=\int_0^1 f(t-z)dz \] である。$f$は密度関数だから定義によって$[1,2]$の領域では$f(z)$がゼロとなり、$[0,1]$では1となる。 それでも具体的な密度関数を計算しようとすると、さらに密度関数の定義域に注意をして、 \begin{eqnarray*} (0\leq t\leq 1)&\quad& f^{*2}=\int_0^tf(t-z)dz+\int_t^1f(t-z)dz=\int_0^tf(t-z)dz=t \\ (1\leq t\leq 2)&\quad& f^{*2}=\int_0^{t-1}f(t-z)dz+\int_{t-1}^1f(t-z)dz =\int_{t-1}^1f(t-z)dz=2-t\\ (t<0,t>2)&\quad& f^{*2}=0 \end{eqnarray*} となる。左辺の1行目第2項と、2行目第1項はゼロとなることに注意しよう。 密度関数は三角形を形作る。続いて$Y_3=T_1+T_2+T_3$の分布についてもやってみよう。 $0\leq T_3\leq 3$であるけれど、畳込みすると、 \[ f^{*3}=\int_0^3 f(t-z)f^{*2}(z)dz=\int_0^2 f(t-z)f^{*2}(z)dz \] となる。上のとおり$f^{*2}$は$[0,2]$で値を持つ。さらに畳込みする密度関数も場合分けして対応させる必要がある。

\begin{eqnarray*} (0\leq t\leq 1)&\quad& f^{*3}=\int_0^tf(t-z)f^{*2}(z)dz+\int_t^2f(t-z)f^{*2}(z)dz=\int_0^t1\cdot zdz=\frac{1}{2}t^2 \\ (1\leq t\leq 2)&\quad& f^{*3}=\int_0^{t-1}f(t-z)f^{*2}(z)dz+\int_{t-1}^1f(t-z)f^{*2}(z)dz+\int_1^tf(t-z)f^{*2}(z)dz \\ &&+\int_t^2f(t-z)f^{*2}(z)dz=\int_{t-1}^1f(t-z)f^{*2}(z)dz+\int_1^tf(t-z)f^{*2}(z)dz \\ &&=\int_{t-1}^11\cdot zdz+\int_1^t1\cdot (2-z)dz=-t^2+3t-\frac{3}{2}\\ (2\leq t\leq 3)&\quad& f^{*3}=\int_0^1f(t-z)f^{*2}(z)dz+\int_1^{t-1}f(t-z)f^{*2}(z)dz+\int_{t-1}^2f(t-z)f^{*2}(z)dz\\ &&+\int_2^tf(t-z)f^{*2}(z)dz+\int_t^3tf(t-z)f^{*2}(z)dz=\int_{t-1}^2f(t-z)f^{*2}(z)dz\\ &&=\int_{t-1}^21\cdot (2-z)dz=\frac{1}{2}(t-3)^2\\ (t<0,t>3)&\quad& f^{*3}=0 \end{eqnarray*} 2重の畳込みと同じように、定義に基づいてゼロとなるところを除外していかなければならない。 式の羅列ばかりではいやになるだろうから、計算の内訳は省略して、 $Y_4=T_1+T_2+T_3+T_4$を載せておこう。

\begin{eqnarray*} (0\leq t\leq 1)&\quad& f^{*4}=\frac{1}{6}t^3 \\ (1\leq t\leq 2)&\quad& f^{*4}=-\frac{1}{2}t^3+2t^2-2t+\frac{2}{3} \\ (2\leq t\leq 3)&\quad& f^{*4}=\frac{1}{2}t^3-4t^2+10t-\frac{22}{3} \\ (3\leq t\leq 4)&\quad& f^{*4}=-\frac{1}{6}(t-4)^3 \\ (t<0,t>4)&\quad& f^{*4}=0 \end{eqnarray*} である。$T_1+T_2$は三角形のグラフとなるが、 $T_1+T_2+T_3$の分布からは三角形ではなく正規分布に似たベル型のグラフが尖度を変えて描かれていくのである。

残念ながら、このやり方の延長で正規分布のような公式的な計算可能な式を見たことがない。 根本的な理由は一様分布は再生性を持たないことに起因するのだが、そのために精度を上げようとすると、 区間に応じて一生懸命計算するしかないようである。(注)

いきなり畳み込みを使ってしまったが、どこかでまた説明を行おう。とりあえず計算をざっとみておかれればよい。

  

(注 2022.04.25)メールで当方の不勉強をご指摘いただきました。一様分布の和の公式が計算できるようです。諸般の了解を取れていないので、 ここに掲載できないのですが、検索いただければ、日本応用数理学会の公開された論文が見つかるそうです。重ね重ねありがとうございました。

















































































































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