数理ファイナンス関連図書
ここに揚げた関連図書は、ホームページを当初掲載した2007年頃に入手できた書籍です。 2015年現在ではかなり古い情報となってしまっています。
より時代にマッチした優れた新たなテキストがいくつも出版されているでしょう。何年も前のものですから、 評価の高いものは新しい版が進んでいるでしょうし、絶版となってもはや入手不可能なものも含まれているでしょう。 大体は学習図書ですから、大きな図書館で閲覧できるかどうかで、その意味からはあまり参考にならないかもしれません。
実はかつてのホームページでは書名、著者名以外にも、目次や章立て、価格、 ページ数などが表示される手の込んだ仕組みでやっていたために、ウィンドウズのバージョンが進んだどこからか、 エラーが起きてうまく表示できなくなっていたのですが、いまさらというかんじもあったので、 修正することもなく放置しておりました。
しかし、関連図書の質問も引き続きありましたし、腰をすえて取り組むうえでは、紙のテキストは価値のあるものなので、 書名だけを移行対象として掲載することとしました。
残念ながら、最新のテキスト動向に追随し、改訂することはできませんので、内容は元の古いままです。 そのことをご理解いただいたうえで、もし使えると思われるならば、参考にしていただければと思います。
デリバティブ全般
- ファイナンシャルエンジニアリング 第4版 - デリバティブ商品開発とリスク管理の体系 : John.C.Hull (東京三菱銀行金融商品開発部)金融財政事情研究会
- デリバティブ価格理論入門 - 金融工学への確率解析 : MartinBaxter AndrewRennie (藤田岳彦,高岡浩一郎,塩谷匡介)シグマベイスキャピタル
- 先物・オプション取引入門 : John.C.Hull (小林孝雄監訳 株式会社オーパス・ワン)ピアソン・エデュケーション
- 現代ファイナンス数理 : Dorje C. Brody 日本評論社
- リスクとデリバティブ - ビジネス金融工学入門 : 西村寿夫 中央経済社
- ファイナンス - PVとオプション : Sheldon M.Ross (西村優子,高見茂男,西村陽一郎)同友館
[1]は理論から応用、実務知識まで網羅した広範囲な内容を含む。学生、社会人全般の期待に応える定評のあるテキスト。 ただ大部であるため読みとおすには骨がいる。すでに第5版が翻訳出版されている。
同著の内容をいっそうやさしくした入門者向けのテキストが[3]である。内容の重複感は否めないので、 勉強の目標レベルによっていずれかを選択すればよい。
[2]はデリバティブに関連する理論的な説明を可能な限り簡明に行った好著。 読みやすさのために数式の導出過程など最低限としているので、ひとつひとつの把握を試みると努力が要るが、 拘泥しなければ時間をかけずに読み通せ、平易でわかりやすい。
[4]は主として学生など数学的な素養のある者を対象としたコンパクトな解説書。著者は外国人であるが日本語で執筆している。 非完備市場なども議論されている。全般のポイントは押さえられているので、証明の道筋とアウトラインを理解するには好適。
[5]は数学の初歩から伊藤積分、ブラック=ショールズ式までの広範囲なエッセンスを取り上げている。 お話しや概略の理解には役に立つが、テキストとしては少し無理がある。
[6]は大学学部生程度の基礎概念の説明が中心となる。[5]と同様にこれだけでは少し物足りない。 これらの中から一冊を選ぶとするなら、やはり[1]であろう。
ブラック・ショールズ式
- よくわかるブラック・ショールズモデル : 蓑谷千凰彦 東洋経済新報社
- ブラック・ショ-ルズと確率微分方程式 - ファイナンシャル微分積分入門 : 小林道正 朝倉書店
- ファイナンスのための確率微分方程式 - ブラック=ショールズ公式入門 : ThomasMikosch (遠藤靖)東京電機大学出版局
いずれもブラック・ショールズ式の導出が最終目標となるため、解析、測度など数学的な説明が大半を占めることとなる。 よほど興味がなければ手に入れる必要はないと思う。
[1]は著名な計量経済学者の手によるもので、 偏微分方程式を正面切って解くためにくどいぐらいの懇切丁寧な説明が展開されている。 統計分析手法との関連なども触れられ知識も広がる。ただしリスク中立確率に関するアプローチは含まれていないので、 他書(たとえば下記の[3.デリバティブ数学]など)で補う必要はあると思う。
[2]は同著者による一連のファイナンス関連のテキストシリーズの一部と考えたほうがよい。 式の導出が目標としてもこの著の説明だけでは少し味気ない。
[3]は上記2冊の中間を取ったようなテキスト。数学の解説と見てもよいが、 ブラックショールズ式を目標と銘打っているのでこちらに挙げた。 数学の解説に偏りがなく広範囲かつ平易である。気軽に進めるという意味では一番であろう。
デリバティブの数学
- ファイナンスへの数学 第2版 - 金融デリバティブの基礎 : Salih N. Neftci (投資工学研究会)朝倉書店
- EXCELとVBAで学ぶファイナンスの数理 : 木島正明,青沼君明 金融財政事情研究会
- ファイナンス数学入門 - モデリングとヘッジング : JosephStampfli,VictorGoodman (米村浩,神山直樹,桑原善太)朝倉書店
- 基礎から学ぶファイナンス確率過程と数値解析 - 金融工学を完全に理解したい読者のための独習テキスト : 西田真二 シグマベイスキャピタル
- デリバティブの数学入門 : PaulWillmott,SamHowison,JeffDewynne (伊藤幹夫,戸瀬信之) 共立出版
デリバティブを主とせず、数学をメインに打ち出したものとして、以上のテキストをあげる。 こちらもほとんどがブラック=ショールズ式の導出を含む。
[1]はみっちり解析的な基礎から作り上げるつもりならば最適と評判の内容である。 ほかのテキストを読みすすめて納得できず苦しんだときにも、この本を開けばよいと思う。 お茶を濁すだけのような数学の補足説明が添付される解説書が多い中、他に類を見ぬ優れた内容をもつ。
[2]は計算ツールの項にあげてもよかったが、数学と計算実務との橋渡しを狙っているようなのでこちらに挙げた。 帯に短しの感は拭えない。
[3]も実務と数学理論のブリッジを狙ったものだが、数学的な解説と例題演習問題が豊富になっており、 理論武装したい実務家向けには役に立つだろう。
[4]は研究者ではなく、実務家によるファイナンス数学全般の解説書といった趣きのもの。 すでに改訂版が出版されている。実務家らしい心遣いがいろいろなされており網羅的でもある。 全体としてはきわめて丁寧な良書である。読み難いフォントを改版してほしいと思うのはわたしだけだろうか。
[5]は数理ファイナンスに挙げたほうがよかったかもしれないが、タイトルに従ってこちらにした。 偏微分方程式の取り扱いを中心として、多数の種類のオプションの解法を論じている。 あまりテキストでは論じられない数値解析の解説にも項を割いており、 実務で解かねばならない問題に直面する者には有用であろう。
中から選ぶとすればまず[1]がよいと思う。
数理ファイナンス
- 数理ファイナンス入門 - 離散時間モデル : Stanley R.Pliska (木島正明監訳東京海上火災保険財務企画部運用企画グループ)共立出版
- 金融工学入門 : David G.Luenberger (今野浩,鈴木賢一,枇々木規雄) 日本経済新聞社
- 現代ファイナンス理論 : 野口悠紀雄・藤井眞理子 東洋経済新報社
- 金融経済学の基礎 : 池田昌幸 朝倉書店
- 資産市場の経済理論 : 前田章 東洋経済新報社
- 資産価格の理論 - 株式・債券・デリバティブのプライシング : DarrellDuffie (大橋和彦,桑名陽一,本多俊毅,山崎昭)創文社
- 現代ファイナンスの基礎理論 : 高森寛 東洋経済新報社
- ファイナンスのための計量分析 : John Y.Campbell,Andrew W.Lo,A.CraigMacKinlay (祝迫得夫,大橋和彦,中村信彦,本多俊毅,和田賢治) 共立出版
それぞれの解説内容の特色を簡単に挙げる。
[1]は離散型のモデルのみを利用してファイナンスの多様な論理を組み立て証明している特色あるテキスト。 離散型とはいえ多期間への拡張を含む。 連続モデルでないため確率微分も伊藤解析も必要とせず構築される論理はリアリティを伴うが、 逆にそのための複雑さも孕む。入門テキストとしてはちょっとハードルが高いかもしれない。
[2]はまったくオーソドックスで丁寧な解説がなされておりテーマも網羅的である。 内容のレベルも適度に調節されている。 数理的なファイナンスを学ぼうとする者が最初に取り組むには最適な好著であろう。 細かい点が気になりだしたら初級卒業かもしれない。
[3]は日本人学者のテキストで線形代数(直交分解)を駆使した新しいCAPMや価格理論の解説書である。 新しいだけにここから入門するのはどうかと思う。2冊目として数学的に興味深い内容がある。
[4]は伝統的な解析手法による確率的割引要素を利用した資産価格理論のテキスト。 研究者向けと銘打っているだけに内容は高度だが、解説は懇切を極めるため、 数学的な抵抗感がなければ入門者でも可。丹念に読み込めばかなりの力がつく。
[5]は経済学者によるファイナンスのテキスト。大半はオーソドックスな解説だが、 バブル経済の分析など経済学的な切り口が興味深い。内容は高度である。
[6]は価格理論を論じており、学術論文でない数理ファイナンスのテキストとしては最高峰のものであろう。 読む場合はおさおさ準備怠りなくこころして臨まれたい。
[7]はコーポレートファイナンスの参考文献としてもよいものだが、 数理的な解説が豊富なのでこちらにあげた。 企業分析と資産・市場分析という広範囲なテーマを取り上げながらレベルをさほど落とさず、 バランスの取れた内容は入門用テキストとしては優れたものであろう。
[8]は計量分析とのタイトルどおり実証研究者のためのテキストの装いであるが、 実証にいたるための理論を逐一丹念に解説しているため数理的なファイナンスとしても優れたテキストである。 ファイナンスは実証あっての学問であることを考えると、難度の高さから入門者はともかく、 どこかで取り組むべき必須の一冊であろう。
まず手始めに選ぶとすれば[2]からであろう。翻訳に抵抗があるのなら[7]がよい。
計算ツールメソッド
- EXCELとVBAで学ぶ先端ファイナンスの世界 : MaryJackson,MikeStaunton (近藤正拡監修,西麻布俊介,山下恵美子)パンローリング
- ファイナンシャル・モデリング : SimonBenninga (ファイナンシャル・モデリング研究会) 清文社
ファイナンスは理論だけでなく、現実の事象に計算によって立ち向かうところに特色がある。 そのために表計算ツールなどに習熟することが好ましい。また現実の数値を当てはめ計算したり、 グラフを描くことは学習の進展にも非常に効果的である。具体的なファイナンスのテーマを例題として、 解法のためのツールの解説を中心としたテキストには上のものがある。
両書とも利用しているのはマイクロソフトのEXCELおよびVBAである。 手にいれやすく手軽に取り扱えるツールということでは最適であろう。 またプログラミングというほど難解な記述を行わなくてもすむ。
とはいえ、ブラック=ショールズ式なども簡単に計算できるようになり、いろいろ興味が広がる。 SAS、MATLABなど本格的な計算ソフトウエアのためには他書が必要となろうが、 基礎的なイメージの把握や家庭での利用のために習い覚えて損はない。どれかといえば、 内容の豊富さ、例題のボリュームという点から[2}がおすすめであろう。 本サイトのポートフォリオの構築の項は[1]を参考にした。
金利・債券投資
- 期間構造モデルと金利デリバティブ : 木島正明 朝倉書店
- 債券投資・ディーリングのための金融数学 : FrankJ.Fabozzi (土田宏造監訳 住友銀行キャピタルマーケット会社) 金融財政事情研究会
- 債券分析の理論と実践 - デリバティブとリスク管理 : BruceTuckman (鈴木琢也,藤井憲,望月衛) 東洋経済新報社
金利の研究のためには債券取引を理解することが重要となる。 別にに「証券投資」として先にあげた参考文献は主に株式投資に関する研究が中心となっていたが、 アカデミックで基礎的な文献はあまり多くなかった。債券取引ではさらに見つけることが難しいようである。 金利そのものについては、デリバティブやファイナンス数学の参考文献で、一章を割いているものが多いので、 そこから取り掛かるしかないかもしれない。
[1]は金利に関する数理的な研究と結論をコンパクトにまとめあげたテキスト。 グループで議論するとか指導者が付いていればよいが、理解のために行間を逐一埋めるのは独学ではなかなか辛いだろう。
[2]伝統的な債券投資の基礎をまとめた参考書。金融数学という書名だが、微積分の利用ですら付録の一部であって、 高等な数学は利用されていない。具体的な数値例が豊富にあり読みやすい。 金利ではなくまさに債券取引の入門書としては好適。
[3]は、やはり債券取引を原理から解説した優れたテキスト。 日本より進んだアメリカの多様な債券取引の現状がうかがわれる。実務家向けには貴重な一冊だと思う。 紹介しておいてなんだが、もしかすると[2]は絶版かもしれない。[3]は新しい版が出る予定である。
新書
- 金融工学の挑戦 - テクノコマース化するビジネス : 今野浩 中公新書
- Excelで学ぶ金融市場予測の科学 - 市場を動かす中心金融定理とは何か : 保江邦夫 講談社ブルーバックス
- (最新)Excelで学ぶ金融市場予測の科学 - ブラック-ショールズ理論完全制覇 : 保江邦夫 講談社ブルーバックス
- 金融工学、こんなに面白い : 野口悠紀雄 文芸春秋
- 金融工学 - 経済学入門シリーズ : 木島正明 日経文庫
- 企業の意思決定のためのやさしい数学 : 山本隆三 講談社+α新書
持ち運びやすく手軽に読める新書をいくつか挙げる。参考書とかテキストではないから、 深い内容を求めることはできない。しかし、なんとなく理解しにくい事柄にぶつかったとき、 他に簡単に書かれたものヒントに、理解の道筋が開けることを経験されたこともあるかと思う。
いずれも新書であるので、ひとつひとつにコメントをするのは難しい。 [1]、[4]、[5]は著名な金融工学者、経済学者、[2]、[3]は数学者によるもの。
もっとも理論面が強調されているのは[5]で、教科書としてもおかしくない高度な内容が含まれている。 まじめに読むのなら、これが一番であろう。
[2]、[3]はタイトルのとおりExcelを利用したシミュレーションによる解説であるが、 [3]はブラック・ショールズ公式の解説が偏微分方程式の解法をベースに丹念に説明されている。 もしかするともっとも安価なブラック・ショールズ公式の解説書かもしれない。 ただファイナンスの全般的な知識からは少し遠い気がする。
[1]、[4]、[6]は簡単な理論解説を中心として歴史的な薀蓄や有名人物評などの読み物と考えればよい。
その他読み物
- 物理学者、ウォール街を往く - クオンツへの転進 : EmanuelDerman (森谷博之監訳 船見侑生+長坂陽子) 東洋経済新報社
- 金融工学者フィッシャー・ブラック : PerryMehrling (今野浩監訳 村井章子) 日経BP社
[1]はブラック・ダーマン・トイモデルと呼ばれる有名な金利モデルの提案者本人による自叙伝。 全編穏やかなペシミズムに覆われながらも、読む者を引き付けて離さない魅力がある。全米でも評判が高かった。
[2]学者としては早逝したフィッシャー・ブラックの評伝。 もちろんブラック・ショールズ公式のブラックである。著者は学者できめ細かく、緻密な内容になっており、 伝記というだけでなくファイナンス理論の発展の歴史にも触れることができる。 もちろん[1]の作者とのオーバーラップもあるため、両方を読めば想像をふくらませられるところもある。