ブラック・ショールズのオプション公式のグラフ

ブラック・ショールズのオプション公式をいろんな形で求めてきた。 数式の計算は解が得られるとなかなかな達成感があって、いっとき幸せな気分にひたることができる。

しかしいろんな方向から面倒な計算ばかりをやっていると、式計算の勘は冴えてくるが、視覚的な具体性に欠けているので、 おおきくあやまった道へ踏み込んでしまうことがある。時にはグラフを描いてみることが頭を冷やして、新たな発見につながることもあるだろう。

ブラック・ショールズのオプション公式は慣れていないと一見するだけではうんざりする形式なのだが、 そんな式でもグラフにすることはできるし、いろいろ納得できることもあるかもしれない。

この項では具体的な数値例を当てはめて、オプション公式のグラフを見てみようと思う。

表記の慣習に従った、ブラック・ショールズのオプション公式はつぎのものであった。

<ブラック・ショールズ オプション価格公式> \[ C=S\Phi(d_1)-e^{-r(T-t)}K\Phi(d_2) \quad ,\quad \Phi(d)\sim N(0,1)\] \[ d_1=\frac{ \log\frac{S}{K}+rt+\frac{1}{2}\sigma^2 (T-t)}{\sigma \sqrt{(T-t)}} \quad ,\quad d_2=d_1-\sigma \sqrt{(T-t)}\]

 

グラフ作成にあたっては、具体的に次のような数値を考えよう。

$C$:(ヨーロピアン)コールオプション価格
$S$:原資産価格(5000円)
$K$:権利行使価格(5300円)
$T$:権利行使期限(3ヶ月)
$t$:現時点
$r$:安全資産利子率(0.015)
$\sigma$:ボラティリティ(0.36)
$\Phi$:標準正規分布

 

たくさんの変数を操作できるときは、関心の変数をどう考えるかによってグラフの描き方は異なるだろう。 いろんなテキストでよく見るグラフは、まずは現時点$t(0\lt t\lt T)$を静止させて、原資産価格$S$が変化したときのオプション価格$C$であろう。 横軸に現資産価格をとって、縦軸にオプション価格をとるものである。

BS価格701

滑らかな曲線がブラック・ショールズ式によるオプション価格曲線となる。

もうひとつ横軸の権利行使価格$K$から右斜め上に伸びる直線は理解のためにおまけにのせてあるが、理論上のオプションペイオフ=オプション価格となり、 オプションの本源的価値と呼ばれる。

つまり、権利行使期日のオプション価格は、$C=S-K$であり、その日現資産価格が高くなれば高くなるほど、オプション価格$S-K$はおおきくなる。 一方で現資産価格が$K$を下回れば、$0\le S\le K$の範囲で、どんな値をとろうともオプション価格はゼロ、$C=0$である。

行使期日当日にはリスクはなく、この通り決まる。これがオプションの本源的価値と呼ばれる意味である。

いっそうあらっぽくいうと、オプションそのものは、権利行使価格が、$K\gt 0$とするのが普通だろう。したがって、オプション公式は、 $C=S$の原点を通る右斜めの直線と、切片が権利行使価格$-K$となるやはり右斜め上の直線$C=S-K$、及び$C\ge 0$の横軸に、 挟まれた領域に存在することはわかるだろう。

そして、現資産価格が上がれば上がるだけオプション価格は上昇するから、右肩上がりの線になることは間違いない。

本源的価値からブラック・ショールズの価格曲線までの増分は時間的価値と呼ばれる。 時間的価値とは、$T-t\gt 0$であるときの、行使期限までの利子率と株価の変動が価格に反映したものと考えらる。 式の上では、割引率$e^{-r(T-t)}$と、正規分布関数$\Phi$による確率的な影響が価格に反映されているということである。

権利行使価格を$K=S+k$としてみよう。 \begin{eqnarray*} C-(S-K) &= &S\Phi(d_1)-e^{-r(T-t)}(S+k)\Phi(d_2)-S+(S+k) \\ &= & S\left\{\Phi(d_1)-e^{-r(T-t)}\Phi(d_2)\right\}+k\left\{1-e^{-r(T-t)}\Phi(d_2)\right\} \end{eqnarray*} となるので、右辺の二つの項は変なことを考えなければ、$0\le \Phi\le 1$であるからいずれも正であって、 時間的価値がオプション価格に含まれることがわかる。

すなわち
\[ オプション価格=本源的価値+時間的価値 \] となっている。

さらに、原資産価格$S$が大きくなると、事前に定まった$k$に対して、オプション価格は$S-K$は大きくなる。 しかし、$k/S$はどんどん小さくなるので、オプション価格に占める時間的価値の割合は、 $\Phi(d_1)-e^{-r(T-t)}\Phi(d_2)$ばかりとなる。

$d_1$と$d_2$の差は、$\sigma \sqrt{(T-t)}$は残るが、次第に接近すると見ると、オプション価格に占める時間的価値の割合は小さくなっていく。 つまり、次第にオプションのグラフは、$C=S-K$の右肩上がりの直線に接近していくことになるのである。

常識的に考えても、あまりにおおきな現資産価格が生じる確率は小さいから、そのような時間的価値は同様にまったく小さくなり、本源的価値だけになっていくということかもしれない。

この$T-t$の大きさに依存する時間的価値の意味合いは、3次元にすると違った意味でより明らかとなろう。

手前が行使期限までの期間を左から右に100%(3ヶ月間)表示し、手前から奥に現資産価格が上昇していく。

BS価格703

分かりにくいかもしれないが、行使期限までの期間が最左端の0%であるなら、$C=S-K$になっている。 期間が長くなるにつれて、左から右に移るので、オプション価格平面は時間的価値の影響が大きくなり、底面から持ち上がってくるのである。

ひとつめの2次元のグラフは、この3次元のグラフを右横から見たときの断面の線になっていると考えられたらよいだろう。

リアル指向が強すぎて、採用数値が細かくなり、あまりうまく行かなかったけれど、ブラック・ショールズのオプション価格の平面はゆがんでみえるであろうか。



ここで紹介するおおよその見当をつける作業は、厳密さを犠牲にするが、直観的でわかりやすければなによりである。

































































































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