配当の影響

株式には配当が発生する。これまで原資産に株式を想定しながら、配当についてはまったく触れてこなかった。 本項から配当によるオプション価格への影響を調べよう。

現実の株式の市場の動きは、配当権利付き最終日の翌日に配当分だけ価格が下落するというのが常識的な理解であって、権利落ちという。 日本ではまだまだ3月、9月の決算による配当という制度をとる会社が大半を占めているようだが、 米国など4半期配当を採用している会社が増えていくと、そのような株式を多数組み込んだポートフォリオは、 終始配当による権利落ちが続いているということになる。

すこし強引な解釈であることは認めるが、配当の影響を調べる上での簡便さを優先し、 配当は資産の価格に対して一定の配当率によって定まり、配当率は時間によって連続的に取り扱えると考えよう。

すなわち、期間当り配当率$D$とすれば、配当額は、$DS$となる。そして、微小期間当り配当は、 \[ DS_tdt \] と考えていくこととする。

この前提で離散変動モデルと連続モデルで配当の影響を調べよう。 そして次項では、ブラック・ショールズのオプション公式がどのように修正されるかを確認しよう。

原資産への影響

配当は連続的に取り扱える配当率$D$として考える。するとまず原資産の価格はどうなるかといえば当然下がる。 しかも確定的に下がるため、原資産の変動はつぎのように考えることになる。 \begin{eqnarray*} 離散モデル\qquad u,d &= &\exp\left\{ (\mu-D)dt\pm \sigma\sqrt{dt} \right\} \\ 連続モデル\qquad dS_t &= &(\mu-D)S_tdt+\sigma S_t dW_t \end{eqnarray*}

すなわち期待収益率を下げる力として働く。結果として、株価過程は、 \begin{eqnarray*} 離散モデル\qquad S_t &= &S_0\exp\left\{ (\mu-D)dt+ \sigma\sqrt{t}\left( \frac{2x-n}{\sqrt{n}} \right) \right\} \\ 連続モデル\qquad dS_t &= &S_0\left\{ \left( \mu-D-\frac{1}{2}\sigma^2\right)t+\sigma W_t\right\} \end{eqnarray*}

ところがリスクプレミアムの修正は次のようになる。 \begin{eqnarray*} リスク中立確率\qquad q &= &\frac{1}{2}\left\{1- \sqrt{dt}\left( \frac{\mu-\frac{1}{2}\sigma^2-r}{\sigma} \right) \right\} \\ ラドン・ニコディム微分\qquad X_t &= &W_t+\left(\frac{\mu -r}{\sigma}\right)t \end{eqnarray*}

これを見れば分かるように、リスクプレミアムの修正に配当率は影響しない。 何故なら、配当率はすでに誰もが知っている確定的なものとして扱われており、 自然確率を受けてさまざまに変化するものではない。

そして配当率にリスクは伴わないから、修正する必要がないのである。

このことは離散変動モデルにおいて、リスク中立確率を求める際に典型的に現われる。すなわち、配当付きの場合は、リスク中立確率は、 \[ quS_t+(1-q)dS_t=e^{(r-D)dt}S_t \] によって求めることになる。

株価は確実に配当率だけ下落する前提であって、リスクを中立にする要因として扱う必要は無いことに注意しよう。 連続モデルにおいても同じ扱いになると考えよう。

従ってリスク中立株価変動は離散型も連続型も、 \[ \Delta S_t=(r-D)S_t\Delta t+\sigma S_t\Delta W_t \] となる。

これらすべてを利用するわけではないがなんとなくイメージをつかんでおいて、 ブラック・ショールズのオプション公式に進んでいこう。

われわれはすでにいくつかの解法を知っているが、ここは離散的な配当支払いやアメリカンオプションへの拡張を考えて、 偏微分方程式による解法で反復してみよう。

偏微分方程式は慣れないうちは抵抗感があるかも知れないが、 このオプション価格に限定すればたくさんの技巧を利用するわけでもないので、慣れてしまえばいろいろ応用範囲の幅広い手法なのである。

それでこの問題を解くにあたって単純な反復ではなく、 試行錯誤の部分を含めた解説を行ってみる。少し話しの展開が冗長になるかもしれないが、得心することが見つかることを期待する。

 

配当付きブラック・ショールズ偏微分方程式

まずブラック・ショールズの偏微分方程式を求めなければならない。オプションの微小価格変化は、 \[ dCt=\left(\frac{\partial C_t}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2S_t^2\frac{\partial^2 C_t}{\partial S_t^2} \right)dt+\frac{\partial C_t}{\partial S_t}dS_t \] であることは変わらない。

複製ポートフォリオの理論を使う。 \[ F_t=w_1C_t+w_2S_t \] とおく。

続いてポートフォリオの微小変化を考えるのだが、このとき配当分を追加する。 \[ dF_t=w_1dC_t+w_2(dS_t+DS_tdt) \]

オプションを持つものには配当は分配されるわけではないが、株式そのものを持つものには配当が分配される。 株式の価格の下落分は配当として戻るため、ポートフォリオを保有するときには配当分を考慮することとなる。

ポートフォリオの微小変化にオプションの微小変化を代入しよう。 \[ dF_t=w_1\left\{\left(\frac{\partial C_t}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2S_t^2\frac{\partial^2 C_t}{\partial S_t^2} \right)dt+\frac{\partial C_t}{\partial S_t}dS_t \right\}+w_2(dS_t+DS_tdt) \]

配当はリスクに関係ないので、 \[ w_1=1,\qquad w_2=-\frac{\partial C_t}{\partial S_t} \] によって不確実性を消失させ、無リスク資産とすれば、無裁定条件が働いて、$F_trdt$ に等しくなる。

故に、 \[ \left(\frac{\partial C_t}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2S_t^2\frac{\partial^2 C_t}{\partial S_t^2} -DS_t\frac{\partial C_t}{\partial S_t}\right)dt=\left(C_t-\frac{\partial C_t}{\partial S_t}S_t \right)rdt \] となり、ブラック・ショールズの配当付き偏微分方程式が得られた。 \[ \frac{\partial C_t}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2S_t^2\frac{\partial^2 C_t}{\partial S_t^2}+(r-D)S_t\frac{\partial C_t}{\partial S_t}-rC_t=0 \]

方程式を求めるにあたってポートフォリオを複製する右辺の式に配当は考慮する必要がないことを注意しよう。 あくまでも無裁定を条件として、現在の元本に安全資産利子率分が増加すると考えるのである。















常識的な一株あたり配当とは異なる設定となる。







































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