リスクコントロール

リスクヘッジは、その言葉通り資産の価値変動を中和することを目的とする行為である。

値上がりすると考えて購入した資産が希望通り値上がりすればなにも問題は無いが、値下がりした時に蒙る損失をあまり大きくしたくない。 損失を一定の水準で押さえたい時に利用する。

もちろん売り買いはどちらでもよいが、ある一つの取引のリスクを定めた範囲以内に押さえることを目的とする。 するとリスクヘッジの手段としては、売りには買いを、買いには売りを当てることとなる。

しかし、ファイナンスの基本的な知見のひとつは、幾度もくり返しているが、無裁定である。 無裁定ならばリターンはリスクに応じて獲得されることである。 したがってリスクヘッジすれば、リターンは下がると考えるほうが正しい。

たとえば、極端な例としては、ある時点で資産を購入するものを原取引としたとき、同時点で同額を売りたてるヘッジ取引を行えば、 それらは相殺されてリスクはゼロとなる。このリスクヘッジ取引は原取引によるリスクをゼロとするが、リターンをもゼロとするので、 合計して取引はまったく意味が無くなる。

したがって、リスクヘッジ取引はどれくらいのリスクとリターンを許容するかということを自らに問いかけ、決断することにつながる。 つまり、リスクをコントロールしようという意思の表現となる。

ある市場だけを考えると、直ちにピンとこないかもしれないが、現物と先物の売り買い、決裁期間の異なる先物の売り買い、 市場時間差や地域差(たとえばニューヨークとバーレーン)を使った売り買いなど、いろんなバリエーションは考えられる。

それらの価格の上限変動の割合や、価格反応のスピードが統計的に把握できていれば、リスクを想定の範囲内に収まるようにヘッジし、 適当な期待リターンを想定することもできるだろう。また相関の明確な異なる銘柄の取引を数量調整しながら組み立てることなどもあるだろう。

現実では、金融取引でない分野での例のほうが分かりやすいかもしれない。

たとえば、リスクヘッジの典型例は、円資本の事業会社が三ヶ月後に現物商品の買い取引をドルでしなければいけないときに、 いま円とドルの為替の先物を組んでしまえば為替リスクは無くなり、ほぼ完全にヘッジされる、というようなケースを想定されるとよい。

事業会社が本業でない為替によって損失をこうむることを避けんがためのリスクヘッジである。

しかしこれは、三ヶ月後に為替の変動を受けて商品取引の決済額が大きく変動することを避けることが狙いであるが、 円安によって買い付け額が膨らむことが無くなると同時に、円高によって買い付け額を縮小させる機会も諦めている。

リスクヘッジを誤解されている多くの方は、リスクヘッジという手法はリスクを削減しながらリターンをあげる手法と思い込んでいることである。

このケースの場合、円安を為替予約によって避けることが出たときはリスクヘッジの効果を認めながら、 円高となったときに機会損をしたといってリスクヘッジの有効性に疑問を投げる主張されることである。

そのような主張がファイナンスにおいては合理的でないことは、もはやくり返すまでもなかろう。

金融においては、リスクヘッジはそれそのものが目的ではない。あくまでもリスクをコントロールしようという目的の元での手段なのである。

単にリスクを取りたくないならば、最初から安全資産を買えばよいのである。このことはポートフォリオの検討のときと同様である。 そして目的は人それぞれにおありだろうから所与である前提で議論を行う。

この目的と手段の関係はいつのまにか忘れがちであるが、特にリスクに注意が向けられるとその傾向が強くなるので、お節介ながら述べたまでである。

リスクを適当な水準とするために取引の総額を調整したくなり、売買単位の異なる資産で売買相殺して調整することはありうる。 何か異なる資産を利用してリスクヘッジを試みることが考えられ、その典型が原資産と派生資産を相互に利用したリスクヘッジである。

そしてさらに現実には取引費用が異なっていたり、数量単位、取引時期や時間が相違していたり、 原資産と派生資産の価格が無裁定条件や均衡に従うための時間的な遅延が生じたりすることは常識であって、 逆に、そういう間隙を突くことも現実的な取引手法であるし、効率的なリスクヘッジ方法なのであろう。

次項からリスクをコントロールする上で有用ないくつかの指標や、様々な投資家の意思の結果が集約された市場ではどのような知見が得られるのかを 見ていきたい。























































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