債券価格の基礎

不確実性を持つ資産は特に株式に限ったものではない。だからデリバティブは必ずしも原資産を株式だけとするものではない。 現実を見れば為替などを含めた多様な金融派生商品が考案され、生み出されている。

ではオプション以外のさまざまなデリバティブにどのように立ち向かえばよいだろうか。これはなかなか難しい問題ではある。

いささかの光明は、ブラック・ショールズの偏微分方程式を求めたときに、関数の有り様はたかだか時間と不確実項から成り、 伊藤の補題を適用しただけであるから、すべてのデリバティブが満足すべき公式となると述べた。

そしてその考えは先物取引の価格の導出にも利用した。すなわちどのようなデリバティブを考えても、 無裁定条件や複製ポートフォリオなどのブラックとショールズの基本的なアイデアは利用可能であることである。

これからのいくつかの項では、これまで確定的かつ一定と考えてきた金利=利子率に対する前提を覆し、 金利に時間による変化と不確実性を導入する。

そして金利の変動をもっとも直接的に影響を受ける債券の価格を調べることとする。

つまり金利に従う債券は金利のデリバティブとなるから、債券価格の決定は実はデリバティブ資産の価格決定となるのである。

とはいえ金利は資産でないとか、償還日や償還額が確定していることなど、 株式オプションと異なるいくつかの取り扱いに掛かる疑問も浮かぶだろう。

現実の複雑な金融資産や金融商品を正しく分析することは難しいが、 金利と債券の議論が株式オプションに続く、デリバティブの応用のもっともプリミティブな例となるのではないかと思う。

そしてその中でブラックとショールズのアイデアや考え方、 原理とでもいうべきものがどのように適応されているかを見ることは、 いっそう複雑な資産の分析にわずかかもしれないが役立つものだと考えられるのである。

まずおさらいとして不確実性を導入する以前の債券価格の決定について整理しておこう。

債券は定められたクーポンが所定の期間で支払われ、 満期となる償還日にはやはり定められた額が償還されて投資家に渡る資産である。この資産の現在の価格を得たいのである。

ただ最終的な目標は金利の不確実な変動に対する分析となるので、 いつものとおり取引費用や税そして債券が持つ信用リスクについては議論の対象外とする。

償還元本、クーポンが定まっているとすればすべて確定的なものばかりではないかと一瞬思われるかもしれないが、 議論のポイントは、これまで一定と見てきた利子率$r$を時間の関数とみることである。

これまで一定と考えてきた金利は現実社会では決して一定ではない。一歩現実に近づけて、 時間とともに利子率が変動することを認めたときどのようになるかということである。

金利と債券価格との関係を明らかとする必要がある。基本的な債券価格式を求めよう。 離散的に支払われるクーポンの取り扱いがやっかいなので、ちょうど株式の配当を連続的に取り扱えるとみなしたように、 債券のクーポンの価値$Q$が連続的に評価できると考える。

時点$t$の債券の元本価格$B$の微小変化とクーポン価値の増加を加えたものは、 無裁定であるならばその時点の利子率$r$による元本増加に等しくなっているはずである。

従って、 \[ dB(t)+Q(t)dt=B(t)r(t)dt \] と表される。両辺を$d$tで割って、 \[ \frac{dB(t)}{dt}+Q(t)=B(t)r(t) \] とすれば、これは線型常微分方程式$B'+Q=Br$と見ることができる。

不確実性を取り入れてはいないが、債券価格の方程式が得られたことになる。これが債券価格決定の基礎である。

この微分方程式は比較的初歩の技法で解くことができるので、下段の項で解いておく。 加えて今後必要となるレート(金利)に関する用語の意味に触れておく。

  1. 割引債と利付債
  2. イールドとフォワードレート(連続型)
  3. (離散型)金利パラメータ






















金利と債券価格は同じようなものと考えることになる。














































まずは自ら解くことにチャレンジされればよいだろう。

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