リスク最小化(その3 制約条件付き)

ポートフォリオを構築するとき、単純なリスク最小化がいつも最適な投資配分比率とならない可能性があることを確認した。 リスクを最小化することが目標としても、安全資産を組み入れてしまうと、すべてを安全資産に投資することになり、ポートフォリオを構築する必要はない。

しかし、定められたリスク資産ばかりのポートフォリオでリスク最小化することは意味があるだろう。 さらに、安全資産を組み入れていたとしても、一定の収益率を確保した上で、リスクを最小にしたいという方法もあろう。 この問題は、 \[ \min\quad \sigma_p^2=w^t\Sigma w\quad \mbox{s.t.}\quad w\cdot\mathbf{1}=1,\quad w\cdot r\geq c \] となる。つまり、リスク最小化の問題に、収益率が所与の$c$を上回る、という条件が追加設定されることになる。 確保したい収益率$c$を定め、それ以上の収益率$r\geq c$について、リスク最小なポートフォリオを選択することである。

現実の資産運用においては、様々な条件が付与されることが想定される。 ポートフォリオを構成する個々の資産に対する投資の限度(比率の上限、下限)が設けられることもあろう。 あるいは年金資金の運用のように、ポリシーが定められており、資金額が大きいための投資限界があったり、 委託者がリスクの種類を限定したいための条件や、海外への投資に制限を受けるなどの運用政策上の条件も生じる。

また理論の上では、$w\cdot \mathbf{1}=1$という条件は、たとえば、$w_a+w_b=1$ということであって、 $w_b$が激しく大きなマイナスであっても、$w_a$はそれを1上回るプラスであればよい。 比率がマイナスということは”空売り”(現物を持たずに売る)ということであるが、 計算の結果が正しくでたとしても、現実にはなかなか許される状況ではないかもしれない。

このような条件が追加されたとき、数学的にはラグランジェ法や2次計画問題という解法のテクニックがあるが、 代数的に解くことはよほど幸運がないと無理であり、現実的にはコンピュータによる数値計算に頼ることとなる。 教科書に載るような一般的な解法はないだろう。

安全資産収益率を上回る収益率はリスクと引き換えになるという収益率とリスクのトレードオフの関係によって、 投資家にとって好ましい収益率とリスクの組を選択するという意思決定問題が発生する。現実はそこにさらに投資配分、 構成比率における条件が付帯するなど、難しい計算に直面するであろう。

いずれにしてもリスクを下げるだけであるならば投資はすべて安全資産となり、これが常に最適とは言いがたい。 逆に収益だけを向上させるなら、最大収益率の個別資産に全額投資すればよいわけだから、これも常に最適ではなかろう。 投資配分比率の最適性を評価するためには、ポートフォリオが実現する収益率とリスクの組に対する評価の尺度が必要となる。

 
























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