効用関数

好ましいポートフォリオを選択することの第一歩としてリスクの最小化を取りあげた。 リスク最小化はその条件だけで配分比率を決定しようとすると、最小リスクの資産への全額投資になる。 つまり安全資産が組み込みまれたポートフォリオでは安全資産だけの投資になってしまい、意味の無い結論となる。

個人の投資家を思い描いたとき、ポートフォリオ構築問題がすべてリスク最小化で解決していないことにも気がつく。 リスクとリターンを相互に比較検討して投資を考えることはまったく日常的であろう。

ポートフォリオのリスク最小化問題は、投資家にとっての最適な収益率とリスクの組は何かという、 ポートフォリオ最適化の問題にレベルアップしていくことになる。

しかも、ポートフォリオに組み込む個別資産の数を増やせば、ポートフォリオのリスクは個別資産のリスクよりも、 組み込み資産の相関関係に大きく影響をうけることになり、もはや個別資産での議論では思いつかないような内容を持った。

そこで必要となるのは、収益率の最大化とかリスクの最小化という単純なハードルではない、 投資家の意思を具現する評価基準である。

この評価基準は投資家それぞれが自ら定めるものであるので、理論として画一的に明示できるものではない。 しかし、さらに議論を進めるために、ファイナンスでは代表的な投資家がもつ評価基準を、 経済学が個人消費者に仮定する効用関数として導入することとする。

経済学は消費者行動の理論に「効用(満足度)」を導入することで研究を進めたが、 ファイナンスにおいても投資家に効用を設定する。 投資家は自分の効用を最大化するようにポートフォリオを構築すると考えるのである。

効用を数値化するものを効用関数という。 効用関数$U$は収益率$r$を独立変数として次のように形状が定義される。 \[ U=U(r),\qquad U'(r)>0,\quad U''(r)<0 \]

「’」は1階の微分操作を示す。すなわち、横軸に収益率、縦軸に効用をとったとき、 収益率が上昇すると効用は上昇する。しかしその効用の上昇の度合いは次第に逓減する(限界効用逓減)という、 右肩上がりながら、次第に傾きが減っていく曲線を想定する。グラフとすれば次のようになる。

utility functions

具体的な関数の形式は特定できないが、もう少しこの関数の意味を調べよう。 効用関数$U$を収益率の期待値回り$E(r)$でテイラー展開する。3次項以上を無視すると、 \[ U(r)=U(E(r))+U'(E(r))(r-E(r))+\frac{1}{2}U''(E(r))(r-E(r))^2 \] さらにこの両辺の期待値をとる。第2項はゼロとなることに注意すれば、 \[ E[U(r)]=U(E(r))+\frac{1}{2}U''(E(r))V(r) \] である。この式は効用(関数)の期待値は、資産収益率の期待値と分散によって支配されることを示している。 そして、同時に正規分布が平均と分散の二つのパラメータで支配されることと合いあわさって、 ポートフォリオの平均-分散分析という大きな研究成果に結実することになったのである。

 









効用関数はあくまでも理論構築上の便宜である。





















ミクロ経済学ではお馴染みの仮定である。



















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